「アルゴス坂の白い家」(新国立劇場)
ひさびさの更新はは辛口です 。10月1日(火)午後2時の回、観劇。
新国立劇場の演劇芸術監督が栗山民也から鵜山仁に変わってはじめてのシーズンのスタート。ギリシャ悲劇を現代日本に翻案する「三つの悲劇」シリーズの第一弾。脚本は川村毅。演出は鵜山仁自身が担当である。
しかし。
雲行きの怪しい船出としかいいようがない。
鵜山さん、本当にこの仕事に力を入れているのだろうか。いや、演出はなかなか面白かったしよかったとは思うのだが、それ以前の企画力や宣伝力に疑問を感じざるを得ない。まあ、ひとり鵜山さんの責任ではないだろうが、2008シーズンのラインナップを一覧しても、栗山時代と比べてなんだか見劣りがする。売れっ子の鵜山さん、他の演出が忙しくて気が回らなかったのか。新国立の演劇はこれからどうなってしまうのか。非常に不安な出発だ。
川村敦という劇作家は、作品構成もうまく、知識もあるとは思うのだが、最近のどの作品をみても、決定的にセンスがずれている。今回は鵜山の演出だったので下品さはかなりおさえられていたが、現代的とも思えず、必然性も感じられない脚本。どうしてこんな人が、世田谷パブや新国立で使われて、大家のような顔で通るのだろうか。
副題が「クリュスタイメストラ」となっている。愛人と図って、夫アガメムノンを殺し、その復讐として娘エレクトラと息子オレステスに殺される母の名である。同じ中劇場で一昨年に観た「喪服の似合うエレクトラ」が思い出される。
役名は同じまま、アガメムノンは映画監督の「巨匠」に、クリュスタイメストラは大女優の妻、エレクトラは娘の小説家、などなど、芸能人一家の話になっている。途中なんだかよくわからないが新宿がテロと戦争で廃墟になるという背景があり・・・
作品の大枠は、こうした翻案脚本を書きあぐんでいる脚本家が、新宿の浮浪者とも思えるエウリピデス(ギリシャ悲劇作家の一人)に出会い、悲劇の描き方を教わろうとするのだが・・・といった感じ。結局原作とは異なり、登場人物たちは憎み合うものの、誰一人として殺すことがなく、弱々しい終幕。まあそれで平和主義でも唱えたつもりなのだろうか。
中劇場の大空間を生かした演出は、仰々しいとはいえ、ちょっと面白かったが、平日マチネとはいえ客の入りが悪すぎる。5分の1入っていただろうか。そもそもこの企画では小劇場が妥当だろう。なんの売りもない作品なのだから。このシリーズ、なぜか平日マチネが週二日もある。若者の観覧を増やそうという気がないのだろうか。ずいぶん後になってとったのに座席は最前列の中央。ということは周りの客はいつ切符をとったのか?
案の定、少ない観客は高齢者がほとんど。となりの老婦人は大口開けて寝てしまい、いびきまでかき始めるのでひじでつついて覚醒させた。いくらなんでも失礼だろう。
タイトルロールの佐久間良子はさておき、よい役者も多かった。エウリピデスの小林勝也はひょうひょうとしてコミカルだし、エレクトラの小島聖は立ち姿もよく、ひとり熱演で際だっていた。(相手が佐久間なのでちょっと空回りの感もあったが。)かわいそうにカーテンコールで客席を見回し悲しそうだった。花もあるし様々なタイプの演劇に果敢に出演しているのでこれにめげずにがんばってほしい。
山田里奈という人はきれいな女優だ。文学座所属とのこと。脇役だが、一番目をひきつけたのは皮肉。篠崎はるくも存在感があった。磯部勉(アガメムノン)、有園芳紀(ヘクトル)、中村彰男(劇作家)、石田圭祐(アイギストス)など男性陣は地味だがうまい。オレステスの山中崇は最初の歌が下手で困ったし、オカマ役もあまりみるべきところがない。
李丹は愛人カッサンドラ、実はテロリストという役で、台詞回しがいわゆる典型的な中国なまりなので、熱演してもどこか滑稽さを感じてしまった。そのうえ、征服された土地出身のテロリストという設定は微妙すぎる。
鵜山の演出そのものや、小島、山田、篠崎、小林といった役者の存在感など、見るべきところはあったが、公演自体の企画が失敗していることは、客入りの悪さが如実にしめしている。年金もらって昼間寝に来るような客ではなく、次世代の演劇文化を担う人たちに、劇場に集まってもらえるような企画をもう少し練ってほしい。芸術監督第一作ならもう少し力を入れたものを持ってくるのが普通だろう。
「喪服の似合うエレクトラ」のような緊張感のあるすごい作品は、ここではしばらくお目にかかれないのか。非常に残念な2008シーズンの船出である。
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