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2006/09/10

TPT『血の婚礼 −Bodas de Sangre』(メルマガ記事転載)

8月に観た芝居ですが、9月8日に発行された日外アソシエーツ「読んで得する翻訳情報マガジンNo.113」に掲載したTPTの『血の婚礼』についての記事を転載しておきます。

僕たちの「スペイン悲劇」 −−TPT『血の婚礼 −Bodas de Sangre』

近代スペインを代表する詩人・劇作家であるフェデリコ・ガルシア・ロルカ。その三大悲劇の一つと言われる『血の婚礼』(1933年)は、戯曲としてだけではなく、オペラ、バレエ、フラメンコ舞踏などにアレ ンジされて、数多く上演されてきた。実直な花婿との婚礼の当日、花嫁は自分を思い続けていた元恋人に心を動かされ、逃亡する。花婿はそれを追い、元恋人と決闘し、ともに倒れる。花嫁だけが生きて戻るというストーリーだ。

今回、観たのはTPT(Theater Project Tokyo)の上演。場所はベニサンピット。隅田川東岸に位置する、倉庫を改造した稽古場群のなかの一角、 TPTの本拠である。作品ごとにさまざまな空間を設定できるフレキシブ ルな会場は、今回は大きく張り出した舞台を三方から囲む座席という形態になっていた。舞台の端には、ワインやグラス、キャンドルなど婚礼の宴の飾りがしつらえらえ、中央には白く大きな布が一枚。この布をロープで引き上げて洞窟の家の天井を表現したり、とさまざまに空間を変化させる趣向。この美術が非常に美しかった。

演出は若きアメリカ人、アリ・エデルソン。TPTでは二年前にも演出を行っている。出演者は、やはり若き日本人チーム。新劇、アングラ系劇団、東宝ミュージカル、宝塚など出身は多岐にわたる。ワークショップ によって作り上げた舞台ということだ。

実は正直、どこか「学芸会」的な趣きを感じざるを得なかった。「学芸 会」などというと「へたくそ」という意味の最悪のけなし言葉になって しまいかねないが、必ずしもそういう意味ではないのだ。俳優はそれぞれに魅力的で持ち味をよく出している。母親役のドスのきいたすごみや、 花嫁役の可憐さと冷酷さをあわせもつ美しさなどが印象に残った。ミュージカル出身女優の歌もよい。

しかし、舞台上にはあきらかに「日本人」の肉体がある。そう感じたのはなぜだろうか。一つの理由は、衣装が現代風のアレンジだったからだと思う。現代東京の街角や、ちょっとおしゃれなカクテルパーティーにいてもおかしくないような服装のアレンジ。それは大仰に歴史的な衣装を考証するよりも、自然な演技と情景を作り出し登場人物に親近感を持たせた点で好感は持てる。ただ、それが俳優たちの日本人的肉体をあらわにし、物語の骨格ともいえるスペインの風土は薄まってしまったよう
に思える。しかしこれはむしろ演出家の意図したところなのかもしれな い。

婚礼のシーンでのダンスはタンゴ風であったが、「がんばって練習しました!」という、せいいっぱいの感じが見えてしまう。音楽はギターやパーカッションなどを用いた俳優自身の生演奏である。素人風味であるが、手作り感としてはここちよい。このように、楽しめるといえば楽しめるのだが、この戯曲の本質にはどれだけ踏み込めたのかどうか。「月」や「死」という抽象的な役が出てくるシーンがあり、逆に、重要なポイントであるはずの、花婿と元恋人の決闘シーンが戯曲にはない。花嫁の揺れ動く心理も戯曲の言葉として深く書き込まれることはなく、本当のところが読み取れない。この戯曲はむしろ非常に様式的な詩劇ともいうべきものではないだろうか。

アリ・エデルソンは前回、TPTで同じ現代アメリカの劇作家、デビット ・マメットの『シカゴの性倒錯』をとりあげた。これはまあ、そつない演出だったと思う。しかし、今回の演出には苦闘したに違いない。「運命」と「情熱」と「死」。才能を随所にちらつかせながらも、スペイン、アンダルシア地方の生んだ天才詩人のすごみのある世界に到達するには、まだ何かが足りなかった気がする。

【上演情報】
TPT56 『血の婚礼』 2006年8月5日〜20日 ベニサンピット
http://www.tpt.co.jp/top/chinokonrei.html

作/フェデリコ・ガルシア・ロルカ
演出/アリ・エデルソン
台本/広田敦郎 美術/二村周作 照明/佐野雅昭・鈴木直之
音楽/後藤浩明 衣裳/原まさみ ヘア&メイク/鎌田直樹
音響/木暮拓矢 舞台監督/山口勝也

出演
宮菜穂子/板垣桃子/パク・ソヒ/斉藤直樹/中村音子
松岡美希/鈴木智香子/野口卓磨/中村伝
倉本朋幸/小川祐弥/田村元/廣畑達也/井上裕朗
河野由佳/篠山美咲/夏川永聖/海老原礼子/大沼百合子

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