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2006/04/07

新国立劇場『カエル』を観る

そういえば、実家に戻ってもカエルの鳴き声を聞かなくなった。高校生の頃は梅雨時になるとうるさいくらいないていた田んぼのカエルたち。どこに行ったのだろう。「あなたはカエルの鳴き声を聞いたことがありますか。カエルはまだあなたのところにいますか。」という作者の問いかけ(パンフレット)は深く心に残ったのだが…。

中国の劇作家「過士行=グォ・シシン」が新国立劇場の「われわれはどこにいくのか」シリーズのために脚本を書き下ろし、鵜山仁の演出で上演されている『カエル』。出演者は4人で、千葉哲也、有薗芳記、宮本裕子、今井朋彦という実力派とくれば、観に行かない手はない。ところがこの4人にして、なかなか波に乗り切れないような雰囲気が濃厚だったと感じた。戯曲と演出と舞台美術が、対立しばらばらになっているような印象を受けたのだ。

★観劇日 4月4日(火) 19:00開演 上演時間1時間20分程度(休憩なし)

過士行の作風は、いわゆる不条理劇、観念劇のようだ。中国の南方の海岸らしき場所に床屋がある。客と理髪師がどんな髪型にしようかと議論をしている。正体の知れない女がまわりをうろついて、水田に田植えをしたり、二人の議論に口を挟んだりする。世界中を放浪してきたという旅人がそこにあらわれ、床屋の順番を待ちながら話に加わるが、前の客の髪型がいつまでも決まらないので、あきらめて旅立ってしまう。

数年後、さらに数年後に似たような場面が繰り返される。いつのまにか、登場人物たちの議論は、前の話題を繰り返しており、観客はいらいらさせられるとともに、ちょっと眠くなったりする(笑)。これだけなら、よくあるフランス風の不条理劇のようにも思えるが、話題というのが、地球環境に関する、やけに具体的な議論なのである。

ワニの生殖能力がなくなったのが人間の避妊薬から来る女性ホルモンのせいである、とか、北極のシロクマからDDTが検出されたとか。最初の場面では911テロが話題となるし、次の場面では2004年末の東南アジアの大津波が話題となる。このジャーナリスティックで直接的な言語が、不条理な場面設定とそぐわず、妙に居心地が悪い。普通不条理劇というと、場面や人物、セリフが何を象徴しているのか、とあれこれ考え想像する面白さがあるのだろうが、そこにニュースキャスターの言葉が入ってきてしまうとどうも興ざめなのだ。

舞台美術や効果も、非常に凝っていてそれ自体としては面白いし迫力もある。小劇場の約半分が広い舞台となっており、中央に相撲の土俵のように丸い床屋のフロアがある。土俵とは逆に一段低くなっており、ここに場面が進むに従って、水が張られて水位があがっていくのだ。3場面の最後では、床屋の中も水浸しで、彼らの足には牡蠣が張り付いているという有様。床屋のフロアは丸く、青と白のまだらになっており、地球を意味しているのがわかる。つまり温室効果による海面の上昇ということだ。

奥の方には女が田植えをする水田が小さな丸い井戸のようにあり、さらに奥から旅人が現れるのだが、そこには、やはりまるい大きな地球儀のような球体が置かれている。最後に近くそれはころがって、床屋の方に落ちて来る。気象以上を表すように、天井から雹が降ってきたり、雷がなったり、最後は雪である。こうした、舞台効果は面白く迫力もあるが、これもまた観念的な劇の内容とはミスマッチなのではないかという気がした。

戦争や環境といった地球規模の様々な問題は、抜き差しならないところまで来ているのに人間はなんども同じ議論を繰り返しているだけでその間に環境はどんどん壊れてしまう、ということなのだと思う。まあそういってしまうと元も子もないが。

書いているうちに、この戯曲を演じるのはかなり難しいのではないか、という気がしてきた。「女は子供を産みたがらない、先生は出会い系サイトにはまっている、子供はドラッグをもとめている」「インテリになればなるほど子供をつくらない、だからインテリがいなくなる」(不正確な記憶による)など辛辣なセリフは心に喰いいって痛いが、全体のトーンは、喜劇的で、コント風なのである。牡蠣のシーンや、3場で客の頭がはげてしまっているところなどは笑いが起きたが、他にも軽妙な感じで笑いをとれそうなかけあいが結構あるのだが笑いが起こらない。俳優たちはうまさに定評のある人たちだけれど、どのように取り組んでいっていいのか手探り状態なのではないだろうか。声が通る人たちだけに、少し痛々しくも感じた。

そしてモチーフの一つになっている小林一茶の俳句。最終場面もそれで終わる。中国語に訳された一茶の俳句集を作者は読んでモチーフとしたというのだが、どうなのだろう。日本語に戻された一茶の句は、ほとんど有効にセリフのなかで機能していないように思われた。俳句の文化的翻訳は至難の業なのだろう。作者が読み取った一茶と日本人が読み取る一茶とは、多分かけ離れているのではないだろうか。

パンフによれば、作者はこの戯曲が稽古の現場で演出家と俳優に対立を起こすだろうと予言しており、演出の鵜山氏は、登場人物の関係性を読み出そうと苦闘しているという。メッセージ性の強い舞台美術とも重なって、不幸にも分裂した印象を与えてしまっている。私はそんな感じを受けた。

新国立劇場 シリーズ「われわれはどこにいくのか」 『カエル』

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コメント

トラックバックを2回も送ってしまってすみません。詳細にわたるレビュー、とっても参考になりました。

投稿: しのぶ | 2006/04/08 00:16

>しのぶさん
トラバひとつだけ残して削除しました。最近ココログの調子が悪く負荷が高いようです。ご迷惑をおかけしています。

ご紹介ありがとうございました。もうたくさんの方が感想を書かれているのですね。

投稿: BP | 2006/04/08 01:00

TBありがとうございます。今日、この件で、中国での新しいニュース(4月14日付)がありましたので、私のブログに追加しました。
・・・
中国のウェブに「カエル」の記事がでた。http://www.022net.com/2006/4-14/52187224256599.html
中国でも話題になっているようだ。公演で、役者の出演料よりも高いオーストラリアのペット用カエルが「出演」しているなど、面白いコメントがある。また、この劇の筋書きを考えたのは、過士行ではなく、演出の鵜山仁が「9.11事件や津波を入れるように」と要望したとの裏話もある。ただ、残念ながら中国での公演の見込みはあるが今年中は無理とのこと。
・・・以上お知らせまで。
演劇にお詳しそうですがプロですか?
私はただのやじうまです(^0^)

投稿: Tama-nyanya | 2006/04/18 11:05

>Tama-nyanyaさん
情報ありがとうございます。へえええ、オーストラリアのカエルだったんですか。最後のシーンしか出ないし、低いところに出すので、人の頭に隠れてほとんどみえませんでしたし、遠かったので本物かどうかも判然としませんでした。新国立もへんなところにお金をかけますね。
セットといい、これみよがしにお金をかけた感が出てしまっていて、ちょっとお役所的というか、予算があるんだから使っちゃえ、的なあざとさが見えてしまい、あまりいい感じはしませんね。
おっと、また辛口になってしまった。すみません。

劇評で喰っている訳ではないのでそういう意味ではプロではないですが、演劇関連の講義はやっているのでそういう意味ではプロなのかもしれません。お恥ずかしい程度ですが。

投稿: BP | 2006/04/20 01:08

私は、翻訳会社でコーディネーターの傍ら、会社が発行するメールマガジンの編集と野次馬記者をやっていて、ボツになった記事やら、私情タラタラの裏話を「王様の耳はロバの耳」式にブログにしています。会社のメルマガは中国語版と日本語版なので中国のリサーチやら中国向けの情報収集が主になっています。
中国のサイトでは、カエルについては、対日本演劇としては結構好意的ではないでしょうか。過士行氏はこの仕事を頼まれて、登場人物の制限やら、テーマ(インド洋の津波やら9.11)にとまどった挙句、本屋をぶらぶらしていてたまたま小林一茶の俳句「痩せがエル負けるな一茶ここにあり」を見つけて、インスピレーションを受けすぐに着稿し7日間で書き上げた、など裏話が紹介されています。
今後も中国関連で面白いうわさやニュースがあったら情報交換しませんか?
また、留学生情報にも関係しています。
私自身はフランス語が専門です。本当は日仏関連の記事を書きたいのですが、いつもボツになっています。
お勤めの東洋学園大学・二松学舎大学・武蔵野大学で中国からの留学生を受け入れるご予定がありましたら、ご一報ください。無償配布の中国向けメルマガに記事を載せたいので。中国では日本に興味のある若い人が潜在的に結構います。
ではまた。

投稿: Tama-nyanya | 2006/04/20 10:39

ここは公開の場ですので、これ以上のお話はメールでいたしましょう。名前のリンクが今回はメールになっていますので必要でしたらよろしくお願いします。
こちらからメールをお出ししようかとも思いましたが、ブログを拝見してもそちらのメルアドがわからなかったので、ここに書いておきますね。

投稿: BP | 2006/04/21 00:58

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