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2006/03/17

近況+メルマガ記事(自転車キンクリートSTORE『セパレート・テーブルズ』)

しばらく更新をさぼってしまったので、日外アソシエーツのメールマガジン「読んで得する翻訳情報マガジン No.100」(2月24日配信)の記事を転載しておきます。

最近の観劇状況。昨年と比較すると仕事がかなり増えてしまったこともあり、観劇ペースは控えめになっています。2月はこまつ座「兄おとうと」、野鳩「僕のハートを傷つけないで」、阿佐ヶ谷スパイダース「桜飛沫」、新国立劇場「ガラスの動物園」、コクーン「労働者M」など。この中では「労働者M」が面白かった。東京国際芸術祭のリージョナルシアターシリーズ4作品も制覇。グランドスラム?(笑)。飛ぶ劇場「IRON」が圧倒的でした。その他、文楽「曾根崎心中」、一青窈ツアー「YO&U」も。

3月に入ってからは水と油「均衡」。しばらく4人での活動休止とのこと。ヤスミン・ゴデール「ストロベリークリームと火薬」(TIF)、ポツドール「夢の城」、五反田団「二人いる風景」、狂言劇場ABプロ両方とも。新国立劇場「十二夜」(子どものためのシェイクスピアカンパニー)は、これぞ演劇の楽しみ。PARCO歌舞伎「決闘!高田馬場」は平日マチネがやっととれて観劇。面白いが相変わらず深みがない。

観ようと思いつつ、時間や体力の関係で落としたものも多いです。「続き」はメルマガ記事の転載になります。


■イギリス演劇も「まつり」になる?   ーーテレンス・ラティガン『セパレート・テーブルズ』

昨年の秋から冬にかけて、イギリスの劇作家テレンス・ラティガンの作品が連続上演された。鈴木裕美主宰の〈自転車キンクリーツカンパニー〉による「自転車キンクリートSTORE」公演である。“ラティガンまつり”と称したこの公演は、〈燐光群〉主宰の坂手洋二、〈劇団M.O.P.〉主宰のマキノノゾミ、そして鈴木裕美自身という小劇場界の有名どころが、それぞれの演出を担当するというものだった。

普段見慣れている舞台で目をひく俳優たちが大挙して出演していることや、第1作の演出家坂手洋二が第3作に俳優として出演するという話題などにひかれた。9月に幕が開いた1作目『ウィンズロウ・ボーイ』は、はじめこそ入りが悪かったようだが、友人にすすめられて足を運んでみた後半にはすでに客席は満杯になっていた。

この『ウィンズロウ・ボーイ』も、10月の『ブラウニング・バージョン』(鈴木裕美演出)も実に面白かった。テレンス・ラティガン Terence Rattigan(1911-1977)は1940〜50年代イギリス演劇界の第一人者と呼ばれたヒットメーカーで、喜劇からシリアスドラマまで、幅広く作品を遺した劇作家とのこと。

前の2作があまりによかったため、不安と期待をいだきながら、師走の新宿へ出向いた。3作目、『セパレート・テーブルズ』である。上演時間は休憩を挟んで3時間を越えた。というのも、この作品は、郊外のホテルと、女支配人、長期滞在する老人たちという「背景」を同一にしながら、時を異にして、中心となる二人の登場人物は第一部と第二部で異なるという作りなのだ。

第一部、ジョー・マルカムという飲んだくれのジャーナリスト(坂手洋二)は、ホテルにやってきたシャングラント夫人(神野三鈴)が、暴力沙汰の末に別れた昔の妻であると気づく。夫人は後に結婚した金持ちのもとで不自由なく暮らしているが、幸せではなくモデルとしての容貌の衰えに恐怖を感じている。マルカムもまた孤独な日々を送っている。

演出家坂手が(昔は舞台に出ていたようだが)素人臭くない、重厚な演技を披露したことに驚いたが、受ける神野がさらによい。こまつ座で、コミカルな演技しか見ていなかったのだが、11月の新国立劇場『屋上庭園/動員挿話』に続いて、素晴らしい演技だった。中年に近づいた切ない女性の心を、その不思議とよく通る声の響きによって、客席まで浸透させた。私は、ひそかに昨年の極私的主演女優賞を神野に与えることにした。

第二部、レールトンベル夫人の娘シビル(山田まりや)は30歳を過ぎても、病気がちで働けず、母とともにホテルに長期滞在している。今でいうひきこもりかニートのような女性だ。彼女は陽気な退役軍人ポロックに好意を寄せているのだが、ポロックは街の映画館で痴漢まがいの行為をして、新聞沙汰になってしまう。レールトンベルは滞在者を代表して、ポロックを追い出すように支配人に詰め寄る。

ここではやはり山田まりやだ。グラビアアイドル出身でバラエティーや商業演劇では天真爛漫なキャラクターを演じることが多い彼女が、暗く、話すのもおぼつかないような正反対ともいえる役を、実にうまくこなしていた。これだけ演技の幅を持つ女優になっていたのかとこれも驚いた。他にも前後半を通して、凛とした支配人を演じた久世星佳、エキセントリックな老婦人の南谷朝子など、印象深い演技者が多く、上演時間の長さを感じさせなかった。

ただ、第二部でポロックが犯す性的犯罪に対する作品自体の結末がしめす価値観(結局許す、ということ)は、破廉恥な行為の続発する現代の目からすると、全面的には受け入れがたいという気もするのだが、このあたりは時代との関連をもう少し精査すべき事柄なのかもしれない。

いずれにせよ、ラティガンは、人間の持つ弱さ、過去に陥った過ちのゆえの苦しみに、深く共感し、そこから再び立ち上がろうとする意志に、それがどんなに小さなものであろうと希望をおいている。そうしたことが、大上段に「クサく」叫ばれるのではなく、さりげなく、しかし力強く語られているのだ。いくつかの欠点はみられたものの、「ラティガンまつり」3作の上演は、2005年の翻訳劇上演のなかでも出色の出来で、とても満足したのであった。

ホテルの食堂のそれぞれのテーブルに点されたローソクの灯りが、暗転とともに消えていく美しい幕切れが今も心に残っている。

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自転車キンクリートSTORE『セパレート・テーブルズ』
2005年12月15日(木)〜23日(金)全労済ホール/スペース・ゼロ
作:テレンス・ラティガン
翻訳・演出:マキノノゾミ

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