« 新国立劇場『屋上庭園/動員挿話』 | トップページ | ク・ナウカ『ク・ナウカで夢幻能な「オセロー」』 »

2005/11/07

二兎社『歌わせたい男たち』

苦い。苦過ぎる。随所にあふれるギャグにも笑えず、笑ったとしても思わず顔がひきつってしまう。もちろん永井愛の筆は冴え渡り、戸田恵子をはじめとするキャストのリズムある演技も申し分ない。『新明暗』のように明治の世のことなら笑えたかもしれない。いや『萩家の三姉妹』のような現代物でもこうはならなかった。この舞台はウェルメイドなコメディとして提出されながらも、あまりに生々しい。

観劇日 11月5日(土) 14:00開演
上演時間 約1時間45分(休憩なし)

劇中、「不起立教師」 拝島のセリフに「泣かせてくれ、本当は泣きたいんだから笑わせないでくれ」というようなのがあったが、「笑わせてくれ、本当は笑いたいんだから、ひきつらせないでくれ」というのがこちらの心境だった。

それは筆者が、私立大学とはいえ教育関係者だからかもしれない(ちなみに儀式では「国家演奏」「教員起立」であり私はそれに従って来た。)。また今はまったくもって不信仰だが、キリスト教会に通っていた過去があるからかもしれない(劇中の音楽教師、仲ミチルの前任者はクリスチャンのゆえに君が代演奏に悩んで退職したとされる。)あるいは、最近「都知事」の意向によって改編され不可思議な名に改められた大学の大学院出身者だからかもしれない。

この劇で私がもっとも注目したのは主人公らしき音楽教師でも、不起立を貫こうとする「サヨク」教師拝島でもなく、校長の与田である。卒業式の君が代演奏で不起立の態度を貫こうとする拝島を最後まで説得しようとする校長。反対ビラを撒こうとする老いた退職後の教師を警官を呼んで逮捕させてしまうという過激な態度に出る若手英語教師の片桐とは異なり、あくまでことを穏便に済まそうとする。が、逮捕前に配られてしまったビラには10年前に校長自身が発表した「君が代強制反対」の文章がコピーされていた。

自己矛盾を明らかにされた校長は、屋上からマイクで演説し不起立者がひとりでも出れば飛び降りると言う。つづく論理的に破綻した「内心の自由」の解釈と「改革」を連呼する姿は、この夏の政治「劇場」の主役のカリカチュアだ。街宣車からの演説を彷彿とさせる構図になっている。しかし校長もまたこの「改革」の犠牲者として描かれている。劇中を通して、不起立者を出した高校の校長初め教員が、どのような注意、指導を教育委員会から受けるのか、が延々と語られる。それを考えるなら誰もが校長のように「転向」してもおかしくはない。トチ狂ったその様子は、シェイクスピアの悲劇の主人公のように狂気と運命に翻弄された姿だ。井上ひさしの『国語元年』で国家の事業に刻苦しながらも裏切られ発狂してしまう主人公がなぜか思い出された。

「教育改革」を信じて善意として過激なとりしまりを行う英語教師。思想には無関心な養護教師。シャンソン歌手をあきらめ、音楽教師として糊口を凌ごうと決意している独身女性。あるいは三人の子を抱えながら、信念をまげることができず、停職を覚悟で不起立を貫こうとする社会科教師。どの人物の行動にも作者は価値判断を与えていないだろう。誰にも「生活」あるいは「考え」があるのだ。それを追いつめたのは誰なのか。あるいは何なのか。訴えられているのはそのことだ。

これが都立高校をはじめ全国の公立校で起こっている現実であるというなら、あまりにも不気味であるとしかいいようがない。劇は卒業式の直前で終わる。校長と拝島はどんな行動をとり、どんな結果が待ち受けているのか。それは劇中のことではない。私たちの(あるいは私の)今後だ。
------------------------------
二兎社『歌わせたい男たち』
作・演出 永井愛
キャスト 戸田恵子 大谷亮介 小山萌子 中上雅己 近藤芳正

|

« 新国立劇場『屋上庭園/動員挿話』 | トップページ | ク・ナウカ『ク・ナウカで夢幻能な「オセロー」』 »

「演劇」カテゴリの記事

コメント

 はじめまして。グルメリアといいます。芝居は好きで、こちらのページもちょくちょく見させてもらってます。「歌わせたい男たち」の校長先生の演説シーン、グルメリアも「これはあの人を彷彿させるな~」と思いながら見てました。選挙や内閣改造などの結果を見ると、時代は明らかに「校長先生や片桐」優勢で動いているような気がしますね・・・。普段は、学校には縁の無い生活をしているので、正直驚きました。TBも貼らせていただきました。よろしくお願いします。

投稿: グルメリア | 2005/11/07 11:12

グルメリアさん、コメントありがとうございます。
「歌わせたい男たち」のレビューはネットにけっこうたくさん出てきましたが、それぞれ着眼点が違うので面白く拝見しています。こちらからもトラックバックいたしました。よろしくお願いします。

投稿: BP | 2005/11/08 04:42

初めまして。
僕はとある公立高校でこの劇のような事実の真っ只中を経験したものです。
なので是が非でも観たかったのですがスケジュールの関係上行けませんでした。
まさに法案が可決した年に高校生だったので
時代の変遷といいますか、BPさんのおっしゃる「今後」を最前線で目の当たりにしてきたと言っても過言ではありません。
実際、卒業した今でも大学で違う事象ではありますが似たような「時代の流れ」を感じずにはいられません。
そして世間一般でも着々とその経路を辿っているかのように感じます。
そのはけ口として(と言うのはあまりに失礼かもしれませんが)演劇というものに辛うじて携わっていたりするので、
やはりどうにかして観に行きたいものです。
長々と申し訳ありませんでした。
失礼します。

投稿: りゅーせ | 2005/11/09 00:37

りゅーせさん、はじめまして。コメントありがとうございます。
そうですか。。「今後」どころではなく、過去であり現在である訳ですね。うーん。
ちなみに土曜の午後の回でしたが、通路に座布団で座らされている方(多分当日券かなにかだと思いますが)いらっしゃって超満員でした。当日券で行かれる場合は問い合わせ必須だと思います。チャンスがあるといいですね!

投稿: BP | 2005/11/10 01:30

結局ベニサンピットでは観れなかったのですが、
追加公演のチケットが取れました。
楽しんできます。

投稿: りゅーせ | 2005/11/18 01:30

りゅーせさん

おおっ、とれましたか。それはよかった。かめりあホールでしたっけ。楽しんできてください。


投稿: BP | 2005/11/18 22:29

はじめまして。
演劇にはあまり詳しくありませんが、年に2~3回ほど見られればうれしいという環境にいます。
今日「歌わせたい男たち」を鑑賞しまして、記事にこちらをリンクさせていただきましたのでお断りをいたします。

投稿: ととろ | 2005/11/26 23:08

ととろさん

ご挨拶ありがとうございます。にぎやかなブログですね。こちらからもTBいたします。

投稿: BP | 2005/11/28 00:57

はじめまして。不躾ながらTBさせていただきます。
この問題について無関心でいた自分をいたく反省いたしました。
かなり辛口批評になってしまったので少しためらいましたが、BPさまの書かれた記事がとても的確でありましたので、恥ずかしながらTBさせていただくことにしました。もし不快になられましたら申し訳ございません。

投稿: かりめろ | 2005/12/02 01:28

>かりめろさん

はじめまして。TB&コメントありがとうございました。

記事を拝読しましたが、なかなか手厳しいですね。名古屋の会場はどのくらいのキャパシティーだったのでしょうか。ベニサンピットはそれほど大きなところではないので(200〜300くらいでしょうか。。)会場の大きさなども受け止め方に影響したのかな、とも思ったりしました。

今後ともよろしくお願いします。

投稿: BP | 2005/12/03 00:28

TBありがとうございます。
名古屋市民会館(中ホール)のキャパは1148名あたりではなかったかと思います。私の席は後ろの方でした。
たしかに200~300のキャパの場所とは伝わり方が違うかもしれませんね。大きい分だけ伝わりづらいところはあるのかなぁと思います。
会場の大きさというファクターはあまり考えておりませんでした。ありがとうございます!

投稿: かりめろ | 2005/12/03 00:39

だいぶ前に書かれたこの記事にコメントするのに多少はばかれましたが
どうせならと思ってコメントさせていただきます。
BPさんのおっしゃる(片桐や養護教諭のような)
若者然とした感想ですがよろしければ御覧ください。

投稿: りゅーせ | 2005/12/06 17:15

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/15869/6938003

この記事へのトラックバック一覧です: 二兎社『歌わせたい男たち』:

» 「歌わせたい男たち」を見てきました [銀座OL グルメリア日誌]
 ベニサン・ピットで「歌わせたい男たち」を見てきました。戸田恵子さん主演だし、作 [続きを読む]

受信: 2005/11/07 10:56

» 二兎社 『 歌わせたい男たち 』 [wonderland]
最初に書き下ろした劇評からの脱皮を何度も試みた。くり返せばくり返すほど、戯曲に引きずられる運動から逃れられなくなった。今が潮時と妥協して、脱稿することにした。 ●〝もしも〟この劇評に興味を抱いたな...... [続きを読む]

受信: 2005/11/14 01:27

» 歌わせたい男たち [FC.VIRIDIS BLOG]
 先日、仕事上でお付き合いのある中上雅巳さんの舞台を見てきました。場所は両国駅から少し歩いたところにあるベニサンビットという小劇場でした。中上さんから「教師を目指す人間なんかにはとてもためになる話だよ!」と伺っていたので、とても観る日を楽しみにしていました。 「歌わせたい男たち」 作・演出 永井愛 出演者 戸田恵子・大谷亮介・小山萌子・中上雅巳・近藤芳正(パンフレット記述順)  物語はとある都立高校の保健室で行われる話です。沖ミチル(戸田恵子)はこの高校の音楽教師で、元売れないシャンシ... [続きを読む]

受信: 2005/11/16 03:00

» 歌わせたい男たち [夢みるととろ日記]
今日は地元の劇場で上演された、永井愛先生作演出、二兎社公演「歌わせたい男たち」を [続きを読む]

受信: 2005/11/26 23:14

» 歌わせたい男たち [かりめろ日記]
■観覧場所  名古屋市民会館■■作・演出  永井愛■■CAST  戸田恵子 大谷亮介 小山萌子 中上雅巳 近藤芳正■■あらすじ■仲ミチル(演 戸田恵子)は、ある都立高校の音楽講師。四十代の半ばまでを“売れないシャンソン歌手”として気ままに過ごしたミチルだが、仕...... [続きを読む]

受信: 2005/12/02 01:31

« 新国立劇場『屋上庭園/動員挿話』 | トップページ | ク・ナウカ『ク・ナウカで夢幻能な「オセロー」』 »