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2005/11/06

新国立劇場『屋上庭園/動員挿話』

岸田戯曲賞に名前を残す、岸田国士戯曲の上演を初めて観る。新国立劇場の小劇場をさらに小さく区切ったLOFT公演。4人の同じキャスト(山路和弘、小林隆、神野三鈴、七瀬なつみ)で、二つの小品を連続して上演し、役が変わるという趣向。演出も宮田慶子と深津篤史がそれぞれに担当する。

観劇日 11月4日(金) 19:00開演
上演時間 約1時間50分(10分間の休憩含む)

1話目の「屋上庭園」の方が短く、約40分。2話目は「動員挿話」。こちらは約1時間。2作目には従卒(太田宏)と女中(遠藤好)が加わって6人。いずれも昭和2年に初演されている。舞台はシンプルで、浮き上がった四角い舞台が1話では屋上となり、2話では主に屋内の部屋となる。変則的なかたちの黒い背景板に、1話では雲と、ビル群の稜線がチョークで描かれているが、2話の最初で従卒によって稜線は消され、多くの日の丸の旗が描かれていく。

なんといっても面白かったのは、1話目と2話目で同じ俳優の演じるキャラクターがまったく変わるところ。たった10分の休憩時間ののちに、境遇や性格などがまったく対照的な人物に入れ替わるのだからたいしたものだ。1作目で、貧乏な夫婦役だった山路と神野が、2作目では少佐とその妻となり、逆に裕福な夫婦だった小林と七瀬が、馬丁とその妻となる。組み合わせは同じなのに立場がすっかり逆転し、雰囲気も一気に変わるところがすごい。役者の技量というものを堪能した。山路は二幕の少佐の、馬丁の妻に辟易とする表情がよい。神野は一幕の卑屈だが夫を思いやる妻と二幕の軍人の妻の横柄な感じがともによかった。小林と七瀬は二幕の言い争いなど愛憎表現が圧巻で見応えがあった。(ミーハーだが昨年の大河ドラマ「新撰組!」の井上源三郎役の小林を間近に見て、「源さん!」と心の中で叫んでしまった。)

「屋上庭園」。昭和初期、銀座のデパートの屋上で偶然出会った学生時代の友人同士。お互いに妻を連れている。財産家の夫婦に対して、かつて文豪を目指しながらも挫折し、今はぶらぶらしているプライドだけ高い男。変わってしまった友情と噛み合わない会話。金を貸せといいながらその言動を後悔して金を突き返す男。貧乏な男の悲しさだけでなく、金持ちの男も体を病んでいるらしく、どこか悲しみを帯びている。金持ち夫婦が去ってからの、貧乏夫婦の会話、特に妻の思いやりある語りかけが秀逸。暗転の後、拍手が起こってもよかったが、機会を逸して拍手は起こらず。まわりを見回すと年配の観客がかなり多い。岸田戯曲にひかれて集まったのだろうか。どうもLOFT公演は観客が盛り上がらないな、と考えながらも10分の休憩に入る。

「動員挿話」。内容も1話目よりは迫力がある。劇中時は明治37年。日露戦争に出生する少佐の家の馬丁。少佐は馬丁も戦地に連れて行こうとするが、馬丁の妻が強力に反対。絶対に夫と離れまいとする。気の弱い馬丁は世間体や少佐への恩義と妻への愛情との間で態度を二転三転させる。ひとときたりとも夫から離れることを拒む妻は現代から観ても狂気じみて感じられるが、戦争批判の言葉はまっとうでもある。これはまさに異常な執着心を持つ人物の言葉に託して、作者自らの主張をしのびこませたものと考えるのが妥当なのだろう。徹底した戦争批判。軍人の家に生まれ、士官学校を出ながら文学を志して劇作家となった作者の心の声なのではないか。パンフに掲載されていた当時の新聞評がまったく性格破綻者を描いたものとして評価しているのも、時代を感じさせる。しかし考えているうちに、この新聞評にもまた裏の意味があるのではないかと思えてきてしまった。

演出家(深津篤史)がパンフに載せた文章で、イラクに派遣された自衛隊員の妻を引き合いに出していたが、現在においても、この戯曲の言葉は生き生きと現実を撃っている。岸田国士、やはり恐るべし。最後の暗転で拍手が起こり、こちらは長く続いた。力のある俳優を間近に観てそのオーラをたっぷりと浴びる幸福感に十分浸ることができた夜だった。
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新国立劇場「屋上庭園/動員挿話」

作:岸田國士
演出 :宮田慶子〈屋上庭園〉
:深津篤史〈動員挿話〉
キャスト:七瀬なつみ 神野三鈴 小林 隆 山路和弘 遠藤 好 太田 宏

美術 :池田ともゆき
照明 :磯野 睦
音響 :上田好生
衣裳 :半田悦子
演出助手 :川畑秀樹
舞台監督 :米倉幸雄

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コメント

いいお芝居でした。一場の山路さんに、「明暗」@漱石の主人公の友である小林(ロシア文学の中の人物)を連想し、後半の七瀬さんに「阿部定」を連想してました。
二場で、七瀬さんと小林さんとかの掛け合いで笑ってましたが、発表当時も笑っていたのでしょうかね。

投稿: 悠 | 2005/11/11 07:21

16日の千秋楽公演を観てきました。

岸田國士さんは演劇賞の冠でしか存じ上げなかったのですが、全く無駄がない整った美しい台本で、唸ってしまいました。

俳優さんたちも素晴らしかったです。

あのセット、不思議な感じがしていたら、逆八百屋(前っ面が高くて、奥が低くなっている)でした。

千秋楽は、カーテンコールで登場した従卒さんと女中さんが、日の丸の絵を消して、「千秋楽ありがたう」と書いて、大きな拍手。それから他の役者さんたちが登場しました。
また、「演出家を紹介します。」と、役者さんたちが客席を示したら、私が座っていた真後ろのお席におふたりがいらして、びっくり!その場で立ち上がってお辞儀されました。

ロフトの椅子が‥ちょっと辛かったです。
上演時間が長い作品だったら、腰が心配かも(笑)。。

投稿: そよ | 2005/11/17 17:35

悠さん、そよさん、まとめレスで失礼します。コメントありがとうございました。

悠さん
なるほど「明暗」の小林と安倍定ですか。通じるところがあるかもしれませんね。後半の掛け合いですが、昭和2年頃はどうでしょう。演出もちがっていただろうし、観客側の意識も違っていたろうし、笑いは起こらなかったのではないかと自分は思います。

そよさん
千秋楽の報告ありがとうございます。楽日らしい雰囲気だったのですね。目に浮かびます。もう一度観たかったなあ。

投稿: BP | 2005/11/17 22:41

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