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2005/10/02

風琴工房『ゼロの棺』

舞台美術は素晴らしい。しかし言葉と空間・身体が噛み合っていない印象を持った。初めて進出したシアタートラムの空間をうまく生かしきれなかったのか。先日のトラムでのKAKUTA公演の時にもそんな声がネットでは聞かれていたが、劇団初見の私にははっきりとはわからなかった。しかし今回の風琴工房は明らかに空間がスカスカな感じがした。

観劇日 9月29日(木)19:30開演
上演時間 約1時間55分程度(休憩なし)

十字架を模したのであろうか、長方形が直角に交差する(客席からは十字架ではなくバッテンとなる)変則的な舞台が組まれている。落ちたら怖いだろうなと思うほど、床から高くなっている(客席の高さとは平行)。背景は奥までがらんと広がっており、天井から釣り針のように小道具(ベンチやちゃぶ台、花束など)がつり下げられている。場面ごとに登場する役者がつりばりからはずし、小道具として設置して行くのだ。小道具のはけも役者たちが行っている。奥につり下げられた柱時計、ノートのようなもの、そして中央の鳥かご(これは死刑囚の独房につるされているという設定)だけは最後まで残る。

インスタレーションとしては素晴らしい。開演前に客席について、この空間がどのように使われて行くのか、期待感があった。確かに最終部の演出には、はっとさせられ、さすがだと思い、これをやるために今までの長い単調な対話群があったのか、とすら思ったが、さすがに全体を評価し直すほどのものではなかった。

1972年当時のある死刑囚の独房。当時は死刑囚が小鳥を飼うことが許されていた。彼は自分の妻と愛人、そして愛人がはらんだ自分の子を殺害し、妻との間に生まれていた娘だけが生き残っている。独房に殺した女たちの幻影?が現れて男と会話を交わす。かたや13年後の成長した娘が、父の死刑執行を行った看守を捜し出して、まったく知らない父のことを聞き出そうとする。この二つの時間が舞台に同居して、交互に進んで行く。この発想自体はそこそこ面白い。いったん会話(ほとんどが二人の役者によるダイアローグである)が別のシーンに移ると、他の役者たちは舞台に存在しながらほとんど動かなくなりスポットもあたらないが、演技をしている役者にゆっくりと視線を向けたりしている。

そして中心となる二人の会話が長く続くが、これが単調に感じられ、ダイナミックさに欠けているように思われた。作・演出の詩森ろば氏の書くことばが、俳優の身体に響いていないように思われてならなかった。俳優の演技力がトラムの空間に対応できていないということだろうか。

この戯曲は、80年代のテレビドラマを意識したのだろうか、コミカルでカジュアルな会話の雰囲気が片方にあり、独房のシーンでは詩的・文学的であろうとしているようだった。が、どういうわけか上滑りしている。ギャグにも笑えない(一部大笑いしている人もいたが)し、文学的な言葉も響いてこない。全体的にどうも会話として書いていても「書き言葉」という感じが強い。作為が見えてしまっているのだ。

同じ風琴工房の2月のスズナリでの公演『機械と音楽』では、ロシアの前衛建築家の生涯をいかにも翻訳調という固い文体で書ききり、なおかつ俳優の身体を積極的に使い(コロスと称するダンスのような集団表現)迫力ある作品となっていたが、今回は身体表現がほとんど使われず、言葉だけで押してしまい、せっかくの舞台美術との乖離が起こっていたように思う。前半は人間関係や事実関係が隠されていて、次第に死刑囚であることや、看守であることなどが明らかにされていくのであるが、そこの種明かしの驚きを狙っているな、という意図が(私には)見えてしまった。(作者はテレビや映画の脚本に近いものを書いている気がする。演劇とそれらの違いをまだ具体的に腑分けする力を私は持たないが。)

背景には死刑制度への疑義、というメッセージもあるようだが、死刑囚の殺人の心理が抽象的に語られ、深められていないこともあり、そうした社会問題というところにはテーマが収斂していかない嫌いもある。結果、ことばと身体、そして空間とがミスマッチなまま終わってしまった2時間弱だったのではないか。代表作の再演であるというが初演は観ていず、どのように変わってこうなったのかは気になるところだ。そんななか、死刑囚の妻役の松岡洋子は声とキャラクターがマッチして個性が感じられ目を引いた。
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風琴工房『ゼロの棺』

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*詩森ろば作・演出 シアタートラム  2001年初演の改訂版。劇場内に入ると十字 [続きを読む]

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