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2005/09/16

蜻蛉玉『ニセS高原から』

高原のサナトリウムを舞台にした、平田オリザの戯曲 『S高原から』を気鋭の若手劇団主宰者4人がそれぞれに脚色・演出する企画、『ニセS高原から』。現在までに「蜻蛉玉」組と 「三条会」組の二つを鑑賞している。その限りでは、まずセットはすべて同一のものを使い、戯曲は適宜リライトして、設定やキャラクターは 自由に変更しているようだ。ただし「三条会」だけは、青年団版の戯曲をその まま使い、演出のみで勝負した。 まずは「蜻蛉玉」組から。

観劇日 9月3日(土) 14:30開演
上演時間 約1時間50分程度

演出の島林愛は平田オリザの指導を桜美林大学で受けた直接の教え子とのこと。そのせいか、作風は平田氏から受け継いだ、日常会話の語彙とトーンで話す〈正調〉口語体演劇というべき演出法である。しかし、このバージョンの特徴はなんといっても原作戯曲における登場人物のキャラクターの性別をすべて逆転させたことだろう。原作では、サナトリウムの入院患者は男性が多いが、「蜻蛉玉」では女性が入院患者の主体となり、医者は女医、看護士は男性となる。

見舞いにくる彼のために化粧をしたり、猫の死体を目撃したことを気にしたり、スペインの美術館周りを夢想したり(この患者西岡は画家であり、強引な婚約者がスペインでの療養に連れ出そうとしている)と女性らしい反応が細やかに描かれている。物語の中でもっとも大きな事件とも言える、婚約者の裏切りをうける女性、村井(婚約者であった男性が別の健康な女性と結婚することを告げにくるが言い出せず、ついてきた会社の後輩に伝えさせる)の「私、死ぬんだよ!」という叫びが切なかった。どうも病身の男が捨てられるより病身の女が捨てられる方が悲惨に感じるのはなぜだろう。それは原作ではひとつのモチーフとして何度も言及される、堀辰雄の小説『風立ちぬ』のシチュエーションを裏切っているからであろうか。『風立ちぬ』では語り手である男性は婚約者の女性の死を看取り、死後の孤独な生活さえ語っているというのに、ここでは男が病身の女をあっさりと捨てていくのである。(「蜻蛉玉」バージョンには表立った『風立ちぬ』への言及はまったくない。)

舞台には様々な花や果実が現れ、また言及される。散歩道に咲くという合歓の花。鉢植えのコケ。サナトリウムで栽培しているというブルーベリーのジュース。入院患者の故郷である大分産の柑橘類。そして裏切りの代価としての見事な大きさの「スイカ」。観劇前に、「蜻蛉玉」という劇団名から、なぜかカラフルなおもちゃ箱を想像してしまっていたのだが、まさにそうしたイメージと合致するように色とりどりの花と果実に患者たちは囲まれている。〈植物の夢〉。なぜかそんな言葉が浮かんできた。

このサナトリウムで療養し(死を待つ)女性たちは、みな植物のようだ。夢見ながら自身を彩り、しかし、その場を動くことはできない。だるい夢の中にまどろみながら、動物のように自由な活動を見せる見舞い客を見送っている。

最終部に近く、印象的なシーンがある。仲間の見舞い客について出歩けず、ベンチで横になっている患者福島が、おもむろに立ち上がると、闘牛士となり、通りがかった親しい患者、吉沢(男性)が牛となって、闘牛のシーンが演じられる。このシーンの直前に、空調が一度止められ、シーンに入ると一気に空調が入り、カーテンが揺れ、風が起こったように感じた。まさに「風立ちぬ」、である。リライトされた戯曲では一切触れられなかった堀辰雄のモチーフはこのシーンに溶け込んでいるように思えた。

闘牛のシーンは福島の(死を前にした最後の?)夢と考えてもよいのだろうか。それならば、その夢は、恋人とともにスペインの美術館めぐりをしたかった西岡の夢につながっている。サナトリウムに群生する植物たちの無意識はひとつの集合的無意識として、つながっているのかもしれない。

福島を演じた女優の、いかにも病身らしき雰囲気がはかなかった。
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『ニセS高原から』
蜻蛉玉組キャスト
井上幸太郎 打田智春(蜻蛉玉) 大竹直(青年団) 北村延子(蜻蛉玉) 小松留美 佐藤恵(蜻蛉玉) 島田曜蔵(青年団) 島田桃依 鈴木智香子(青年団) 主浜はるみ 夏目慎也(東京デスロック) 西山竜一(無機王) 日比大介(THE SHAMPOO HAT) 望月志津子(五反田団) 安村典久 鷲尾英彰

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