りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ第三弾『冬物語 -Barcarolle-』
地下鉄の表参道をおりて、ブランドショップの立ち並ぶ青山通りを歩いて行くと、ひときわ目立つ巨大なガラス張りの建物。これはプラダである。そのはす向かいの目立たないコンクリートうちっぱなしの建築物が今回の会場の「銕仙(てっせん)会能楽研修所」。コンクリートの建物の内部に能楽堂がすっぽり収まっているのだ。席は畳敷きの桟敷席。段差はあるが背もたれはない。
観劇日 9月18日(日)14:00開演
上演時間 約2時間30分(15分の休憩あり)
能楽堂の空間を使ってシェイクスピアを上演する。舞台装置は極力廃し、四角い舞台上での位置取りなどで場面を見せていく。能の作り物や面が使われ、衣装も能装束をイメージした和風のものを中心としている。この衣装(時広真吾)がたいへん美しく、これだけでも見る価値がある。シェイクスピアの物語の中で「かごめかごめ」が歌われたり、悩めるシチリア王が小声で般若心経を唱えたりするのだが、不思議と違和感がないのが面白い。
昨年の第一弾、『マクベス』の時は、発声や動きにも様式性を取り入れていたが、今回は若干そうした様式性が薄れ、AUNの俳優が入っていることもあって、吉田剛太郎タイプの熱いセリフ術が入ってきており、その分、リアリスティックな印象を受けた。今回は音楽性や様式性が抑えられ、物語や登場人物の省略も前作と比較して少なく、それだけ「言葉=物語」が前面に押し出されてきたかのようである。
巫女(魔女)の歌が多かった『マクベス』、白石加代子と10〜20代の女優のみで演じられた第二弾の『リア王 ー影法師ー』、この全二作はピアノの生演奏で音楽が入ったが、今回副題にもなっているチャイコフスキーの「バルカロワレ(舟歌)」は生ではなかった。それでも「舟歌」の哀切なメロディの情感は、控えめにだが全編に流れている。
だが能楽堂シェイクスピアの魅力は、様式性を取り入れた空間処理と大胆な筋の省略によって、むしろ「言葉=物語」が強く印象づけられるところにあるように思える。舞台には時に、和紙でできた丸いバレーボールほどの球体(この球体が白熱灯のような明かりを内蔵していて光っている)を持つ少女たちが現れ、球体を上下させながら、舞台の周りや背後をゆっくりと移動する。彼女たちはセリフを発さないが、役名は「言霊」となっている。物語のはじめに、幼い王子マミリアスが桶からひとつの光る「言霊」を取り出して語りだし、最終部では王女(王子と二役)によってそのシーンが繰り返され「言霊」は桶に納められようとする。15分の休憩時間の間も、王女パーディタ役の横山道子は舞台にとどまり「言霊」を持って舞台を回り続ける。
「言霊」という役名を知らず、上演中はこの球体を、太陽系を回る惑星のような天体としてイメージしていた。惑星が太陽を回る、つまり時間の経過と回帰に物語が支配されていることの形象のように思えたのだ。思えばこの物語は、長い時間の経過を感じさせる物語だ。愚かな嫉妬のゆえに、シチリア王は妃のハーマイオニと幼い王子を死に追いやり、生まれたばかりの王女も荒野に捨てられる。アポロンの神託により疑いは晴れるが時は既に遅く、シチリア王は後悔のうちに15年を過ごす。どうあっても戻らない時間。後悔の時ほど長い時はない。
16年の月日の後、奇跡のように、死の世界から王レオンティーズのもとに戻ってくるハーマイオニとパーディタ。面をつけたまま、二幕の間常に無言で蔀の中にいたハーマイオニが、最終部で彫像として現れ、生きた人間として動き始める。その瞬間の静けさ、美しさには息を飲んだ。「バルカロワレ」の哀切な響き。パーディタもまたマミリアスと二役であるため、王子が生き返ったかのごとくイメージされる。再び結ばれた家族だが、失われた長い時の間流れていた深い悲しみは消すことができない。「その後どんな時を過ごしたのか語り合おう」という最終部のセリフがそれを示している。そして最大の悲しみである死の匂いがいつまでも舞台には漂っていた。
AUNの俳優である谷田歩(シチリア王レオンティーズ)と中井出健(ボヘミア王ポリクシニーズ)は迫力と安定感がある。が、もう少し抑えた演技の方が能楽堂上演にはふさわしいように思えた。ハーマイオニの山賀晴代は落ち着いて美しく、マミリアス/パーディタの横山道子は可憐だ。他にシチリア王の忠臣カミロー(荒井和真)や、ポーライナ(田島真弓)が印象に残った。演出の栗田氏は、家臣アンティゴナスと羊飼いの早変わりが面白く、個性的な演技も披露した。
このシリーズの美意識にはたいへんひかれるものがあるし、野村萬斎などとはまた違った角度からの古典と現代劇との融合の試みとして、重要だと感じる。今後も注目して行きたい。
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りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ第三弾
『冬物語 −Barcarolle−』
出演:谷田歩、中井出健、山賀晴代、荒井和真、福島美穂、南拓哉横山道子、横山愛、田島真弓、塚野夢美、塚野星美、住田彩
作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
構成・演出:栗田芳宏
衣裳:時広真吾(リリック)
ヘアメイク:佐藤圭、
小道具:後藤信子
企画・製作:りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)
東京公演 鎮仙会能楽研修所
2005年9月18日(日)、19日(月・祝)全席自由4,000円
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