« シャウビューネ劇場『火の顔』 | トップページ | 『うら騒ぎ ノイゼズ・オフ』(新国立劇場) »

2005/07/02

『死の棘』(演劇企画集団 THE・ガジラ)

上演時間2時間20分休憩なし、というアナウンスが流れて心の中でため息をついた。これはきつそうだ。トラムの椅子はベンチ式で硬めだし。結果2時間20分の痴話喧嘩(といってしまうと通俗的過ぎるが)につき合わされ、確かにきつかったが、それを味わうことが、この作品の理解なのだろうと思った。凄絶さのなかにある、断つことのできない、「絆」とでもいうべきものの強さが伝わってきた。あと2日。

観劇日 6月30日(木) 19:30開演
上演時間 2時間20分(休憩なし)

演出の鐘下氏が最近お得意の、水を用いた演出。シンプルな舞台と水と光と影の演出は、実に美しい。このセンスが好きで、ハードな話であることがわかっていても足を運んでしまうことが多い。F列が最前列で、舞台左右にも2列ずつの座席が囲む。四角く水が張られたなかに、丸く、木製の舞台が浮かんでいるかたち。出入りは後ろにまっすぐにのびた渡りから。下手手前の水の張られた部分に、文芸誌やインクのこぼれた原稿用紙、タバコ、電気スタンドといったものが置かれる文机。舞台には水道の蛇口とバケツ、一升瓶。丸い舞台の中央部には、「便所」に模される長方形の穴。丸舞台の縁には模型の汽車の走るレールが引かれており、劇中で一度と終演後に模型が走る。

この舞台に、「トシオ」と「ミホ」、そして、学生服や軍服や背広姿の3人の「敏雄」たちが現れる。二人の幼い子どもはプラスティックの人形(マネキンのような)であらわされる。人生の各時代の敏雄たちは、必ずしも回想場面を演じるということではなく、物語の現在の「トシオ」と「ミホ」の凄絶な争いを常に見つめ、時には介入する。医者など別の登場人物のせりふを担ったりもする不思議な存在だ。

内容はもちろん島尾敏雄の『死の棘』を原作としたもの。特攻隊として南島に赴いた島尾敏雄は現地でミホと出会い生き残って戦後結婚するが、敏雄の不倫がもとで、ミホは心因性反応を起こし狂乱する。その10ヶ月間の夫婦の葛藤の記録が『死の棘』だ。舞台上で二時間半近く続く、妻の狂乱、執拗な詰問と罵倒。夫はそれにとことん付き合い、謝罪し、改心を誓い、また時にはしつこさに辟易して反撃し、自分の首を絞めて死のうとしたり、とっくみあいの喧嘩になる二人。バケツで水を頭からかけたり、水のなかに倒れこんだり、包丁を奪い合ったり、まさに迫真の演技。舞台は水浸しである。

(今思い出したが、5月のコクーンの『メディア』も水が張られていた。まさか影響を受けたわけではないと思うが・・・ 追記:この記事によれば、山本健吉が原作と『メディア』を比較したという。)

「肺炎になって死ぬ」と夫が言って服を脱いで座り込むと、「それなら私も死にます」と妻も服を脱ぐ、といった常軌を逸した意地のはりあいもあり、思わず客席からは笑いが漏れる。自分もいつのまにか、この夫婦は、憎みあっていながら、とことん同調しようとしているのではないかと思うようになった。そう思うとほほ笑ましくさえ感じる。とはいえ、刃物での渡り合いは演技としても笑い事ではない。まして舞台は水浸しなのだ。熱演の髙橋恵子・松本きょうじには脱帽。

最終部南島に戻っていくミホとシマオ。島唄が流れ、どこか安らかな終末。後味は悪くなかった。『死の棘』という日本現代文学の大作にあえて取り組んだ姿勢は、評価できる結実を持ったと思う。

蛇足だがパンフレットの最初に乗せられた島尾ミホの直筆メッセージには感動した。

THE・ガジラ「死の棘」

舞台写真

|

« シャウビューネ劇場『火の顔』 | トップページ | 『うら騒ぎ ノイゼズ・オフ』(新国立劇場) »

「演劇」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/15869/4785776

この記事へのトラックバック一覧です: 『死の棘』(演劇企画集団 THE・ガジラ):

« シャウビューネ劇場『火の顔』 | トップページ | 『うら騒ぎ ノイゼズ・オフ』(新国立劇場) »