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2005/07/14

『キレイ  神様と待ち合わせした女』(シアターコクーン)

上演時間が3時間35分。ソワレだとカテコも入れて、劇場を出られるのは10時45分くらいか。Bunkamuraの駐車場は10時30分で終了するそうで、どこか近くの駐車場に入れてくれ、とロビーでアナウンスしていた。遠方の方は終電の時刻も計算に入れておかなければならないだろう。要注意である。長くて最後まで集中して見続けるとかなり疲れるが、自分としては大満足の舞台であった。

観劇日 7月13日(水) 19:00開演
上演時間3時間35分(15分の休憩を含む)

2000年に、大人計画の松尾スズキがはじめて大劇場で手がけた自作ミュージカルの再演。初演はテレビ放送をおぼろげに観た記憶があるのみだった。

主演予定の酒井若菜が体調不良で降板したのが残念だったが、代役の鈴木蘭々がよくその穴を埋め、楽しく観ることができた。短い期間によくあそこまで仕上げたものだ。結果、なんとなく初演の奥菜恵にどこか通じるところがあるように思えた。酒井だとまた違ったケガレになっただろうとは思うが、それはまたの機会があればということだろう。ミュージカルということもあるのか、他の松尾作品よりずいぶんとストレートで暖かい作品のように思えた。

三つの民族に別れて100年の紛争が続く、架空の日本。不気味なジャングルの大木を思わせるような舞台セットもSFの世界らしく、歌、踊りも迫力があり楽しい。しかし歌詞が全然聞き取れなかった。席が近過ぎて音響が大きかったか? パンフ(1800円)には、歌詞が載っており、読むとなかなかいい。ちゃんと劇中で聞き取れるとよかったのだが、ダイズ丸の「調味料はいりません〜」くらいしかまともに聞き取れなかったのは残念。(最後の「ケガレてケガレて私はキレイ」はちゃんと聞き取れましたが・・)

松尾スズキ、クドカンはじめ大人計画の役者さんがほぼ総出で実にキャラクターが豊かで楽しい。そして大人計画には良く出ている片桐はいり、劇団☆新感線の橋本じゅん(ダイズ丸の役どころ良かった)などなど、長時間にして飽きることがない。コロス・ダンサーの方々も軽やかに踊りあるいはネタを熱演し、目をひいた(特に木村智早さん、個人的に好みである)。

死んで食糧になることを願いながら、常に生き恥をさらしてしまうダイズ丸はテンション高く、ケガレの相手役となるハリコナの阿部サダヲは元気いっぱいのびのびとしている(後半出番が少ないのが残念)。バカから天才になり(成長したハリコナ役は岡本健一で、こちらは不気味さを醸し出していた)またバカに戻るというところは、『アルジャーノンに花束を』を彷彿とさせる。これらの人物、また地下室にケガレを軟禁するマジシャン(宮藤官九郎)らなど登場人物それぞれにドラマがあるが、なんといってもこの物語は、女性の魂の物語である。

ケガレ役のことばかりが話題になるが、成長したケガレであるミサ役の高岡早紀も舞台経験が少ないということだが、美しく、純粋さを感じさせ、ダンスを含め、とても印象的だった。またケガレの友人となるカスミ役の秋山奈津子も少女性を表現して、うまい。後半出てくるヘビーメンスシスターズ(すごい名前だ)など、女性という存在の身体と精神にこの作品は深く切り込もうとしているように思えた。

身分の高い家柄に生まれながら誘拐され10年の間、地下室に閉じこめられて成長したケガレはやがてそこを抜け出し、カネコ一族に拾われ、ハリコナと結婚の約束をする。しかしケガレが銃弾に倒れ5年間眠っている間に状況はすっかり変り、ハリコナは変貌している。ミサと呼ばれるようになったケガレはハリコナと別れ、再び落ちぶれてしまい、と一人の女性の遍歴が描かれるわけだが、物語は決して時系列に従っては進まない。大人になったミサが回想のかたちで語り始めるその話は失われた記憶を探し求める物語でもあり、舞台上の時空は、記憶の復活とともに複雑に入れ替わり、ある時は、舞台上にミサとケガレが同時に存在しながら、別々の時空を重ねて見せてくれる。まさに演劇空間の面白さである。

このケガレとミサが過去と未来からお互いを意識し呼び交わすシーンがいくつかあり、とても印象的だった。なかでも過去の自分が未来の自分の頭をなでるシーン。そしてもう一つは最終部、地下室から逃げ出すケガレが下から上に、地下室に戻ろうとするミサが上から下に、同じ女神像を動かそうとする姿をパラレルに見せるシーン。これらは、過去の自分の中にすでに現在があり、現在の自分のなかにすでに未来の自分が存在しているという、人間の潜在意識の構造を見せてくれる。人間存在の不思議さ、崇高さが視覚的に表現され、本当に素晴らしかった。

そして忘れ去ろうとして忘れ、潜在意識の中に沈めた過去であれ、その過去の自分ともう一度出会った時に、ケガレは「キレイ」として再生したのである。そしてそこには大きな梅の花が咲いている。バカだった時のハリコナが咲かせ、ダイズ丸が最期に咲かせた花。このつながりにも感じ入った。そして宇宙船の爆発による「花火」も。

エンターテイメントでありながら、心の深層をえぐっていくような松尾ワールドの集大成的大作である。

シアターコクーン「キレイ」ページ

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 Bunkamuraシアターコクーン公演「キレイ〓神様と待ち合わせした女〓」(作・演出:松尾スズキ、東京公演7月6日-30日、大阪公演8月7日-12日)はなかなかの評判です。2000年6月、松尾スズキがシアターコクーンに初進出し本格的ミュージカルに挑戦した「キレイ」の5年の再演です。...... [続きを読む]

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