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2005/06/30

シャウビューネ劇場『火の顔』

『アルトゥロ・ウイ』にハマり、シアタートークを聞きに行ったりしたのだけれど、忘れないうちにシャウビューネのもう一本を。『火の顔』と聞くと神話的な物語を想像するが、内容は、現代の少年犯罪の物語、といってもよいような、ヒリヒリするものだった。確かにどこか神話的な荘厳さもあるのだが。

観劇日 6月24日(金) 19:00開演
上演時間 約2時間15分(休憩なし)

舞台の作りが変っていた。土手のように舞台が盛り上がっていて、人物はその土手の向こう側から土手を上って現れる。土手といっても上は平面で、中央にベッド、上手に洗面台、下手にキッチンのテーブルと椅子といったシンプルな装置。そして土手の手前にはレールがあって、そこを二枚の大きなパネルが、場面転換の時に移動する。パネルが移動する時には、舞台全体に画像が投射されて、風景や人物を映し出す。観たことのない舞台設定だった。舞台袖からでも特別な場所からでもなく、ぬっと、舞台の向こう側から姿を現す人々。

両親と姉と弟。子供らはいわゆる思春期の年頃。両親には会話がなく、姉弟は、性的な遊びにふけっているようだ。やがて姉にはちょっとまぬけで善良そうなボーイフレンドができ、別の世界を求める姉は性関係を結ぶが、世界が何も変らず落胆する。このあたりまではありがちなドラマ風でもあり、少し退屈だった。

が、いきなり弟の方が自分の顔を焼いてしまう。休み時間の教室に放火をし、自分の顔にわざと火をかぶったのだ。弟の顔は、赤くなりそこに白いクリームを塗りたくられている。この後弟の顔は最後までこれだ。弟は次第に、全ての外界を拒絶し、怒りを抱え、放火犯となっていく。弟がときおり語るセリフが、この犯罪が単なる愉快犯ではなく、孤独の末に行きついた哲学に基づくものであることを示す。姉はボーイフレンドを拒絶し、弟の世界に追随するようになり、放火の現場にもついていく。

退学になり、家族のやっかいものとなった弟は田舎の叔母の家に送られるが、放火の事実を知った両親は弟を呼び返し、警察に通報しようとする。姉弟はその夜両親をハンマーで殺害する。まさにこの現代日本で現実に、同時に起こっている現象そのものではないか。家族の崩壊、少年犯罪、近親殺人。(ベルリン初演は6年前だそうだ。)あまりに恐ろしい現実を突きつけられている気がして、途中で席を立ちたくなるほどだった。

しかし、弟クルトの持つ、それこそ神話的といってよい(ギリシャ劇にどこかでたとえられていたが)ほどの、強烈な怒りと、火による破壊への信頼、それはとりもなおさず火による浄化を求めてのものだろう。そういう「火」のイメージの強さ・気高さを感じることができたので、最後まで、クルトの立場に寄り添いながら観ることができた。

圧巻は姉にも裏切られ(助けに来たボーイフレンドに両親殺害は弟の仕業だとして保護を訴える)、一人になったクルトが、家中にガソリン(灯油?)を撒き、マッチで火をつけるシーン。クルトは半透明のパネルスクリーンの向こうにたって、マッチをする。火の海になって燃え盛るであろうその情景をイメージしながらも、実際はマッチの火は小さくなり、消えさって、そこで終幕。だんだんと小さく、弱くなり消えていくマッチの火が、クルトの生命が消え去っていくイメージと重なり、カタルシスを生んでいたと思う。怒りと悪の権化となった自分自身を、火で浄化したともいえる終幕は激しく心に残った。恐ろしい劇だが、どこかにすがすがしさもある。

もちろん、深刻なだけではなくいくつかユーモラスな場面もあった。それにしてもドイツ演劇って男がよく脱ぐね。ここでもボーイフレンドが服を燃やされて全裸になっていた。

作者はこの作でデビューしたマリウス・マイエンブルグ。シャウビューネの若きドラマトゥルグでもあるという。25日(土)のトークセッションに出演した彼は、作品に似あわず、とても穏やかでユーモアのある青年だった。

『ノラ』『火の顔』(世田谷パブリックシアター)

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