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2005/05/23

『メディア』(シアターコクーン)

五月はよい芝居がたくさん上演されており、週に二三度足を運び続けているのだが、レビューの方がなかなか追いつけないでいる。簡略なものになってしまうが、できるだけ記録を残していこうと思う。まずは一週間以上前になってしまったが、蜷川VSコクーンの第三作目、大竹しのぶのギリシャ悲劇『メディア』である。

観劇日 5月13日(火) 19:00開演
上演時間約1時間50分(休憩なし)

蜷川氏は見たこともない舞台を作る。今回は、舞台のほぼ全面に水が張ってあるのだ。石の城壁の前の堀か池という感じ。中央に木の渡しがあり、舞台全面に延びている。大きな蓮の花が咲き誇り、さながら極楽浄土の様子だが、ここで起こることを考えると実に皮肉だ。蜷川舞台の蓮の意匠は、再演『オイディプス』でも枯れた蓮の花が出てきたし(荒れ果てた国の象徴らしかった。ということは今回の咲き誇る蓮はコリントスの繁白い蓮の花をもって登場したような記憶がある。役者の多くは、ばしゃばしゃと水の中を歩き、最前列にはその度に水がかかるため、ビニールの水よけが配られている。

コロスは皆老婆で、しかし乳飲み子を抱えている。女性の地位の低さゆえの苦しみを切々と訴える様は不気味な迫力があった。クレオン王の吉田剛太郎さんが一場しか出てこないぜいたくさ。しかし「私は王だが王に向かない性格だ」と現代的な翻訳でおおまじめにやるから、会場にはとても受けていた。メディアを庇護すると保証しにでてきたようなアイゲウス(笠原浩夫)も別の一場だけだが、輿に乗って出てくる。二人とも何か漫画的なキャラクター。

主役の大竹さんが登場したとき、茶髪の短髪という髪形を見て、気合いが入っているな、とすでにどきっとする。肩から背中にかけてはタトゥー。ぼろぼろに裾が破れた赤っぽいドレス。実は祭りの神輿をかつぎに出てきたもとヤンキーのおばちゃんを連想してしまった。パンフレットの稽古写真を見ると、黒いドレスでタトゥーはない。こちらの方が、ずっと魔女の血を引く王女らしいが、パンフでも自分でいっているように蜷川氏がわざと、そういう洗練された世界を壊して、ダサくしている意図なのだろう。自分を止めてしまわないための方策なのだろうが、できれば、かっこいい黒いドレスの大竹さんもみてみたかった。

妻を裏切り、復讐される羽目になる夫イアソンは、生瀬勝久。こういうおかしみのないまじめな役もなかなかいける。素晴らしいコンビだ。栄達のため家族を捨て、クレオン王の王女と結婚するというイアソンに復讐するため、メディアは毒を仕込んだ贈り物を使って、王女とクレオン王を殺し、夫との間に生まれた二人の幼い子を殺すことによって夫への復讐とする。

殺しの計画を話している場面では、目の前に出てきた子供たちへの愛と復讐の怒りにひきさかれ、嘆きに嘆くメディアだが、いったん子どもを手にかけてしまうと、その嘆きは消え、龍の体を模した車に乗って宙を飛びながら、イアソンを罵倒しさっていく。この大仕掛けの龍の車もなんだが漫画チックでも有り、いかにも古代の中国南方かベトナムあたり、アジアの世界を模している。もっと暗く悲しい嘆きの結末と思っていたら、何かふっきれたようにすっきりと罰を覚悟したすがすがしさ、ということになってしまい必然性はどうあれ後味は悪くなかった。

「オドソンカンゲキモード」さんによれば、嘆くイアソンが崩れ落ちた場面で舞台の後ろが開き駐車場が丸見えになっていくとき、救急車のサイレンが聞こえたとのことだが、自分の時も聞こえたので、これはやはり仕込みであろう。メディアは、舞台空間をつきやぶり渋谷の街中に消え去ったのである。このコクーンの舞台後ろを空けるやり方は、たしか白石・藤原の『身毒丸』でも行っていたはず。それと蜷川さんではないがNYに勘三郎が持っていったコクーン歌舞伎の最後でも開けられていた。

今回は龍の車がクレーンで動いていたし、唐組や新宿梁山泊などのテント芝居の最後のカタルシスを思い起こさせる作り。もっと洗練された舞台を作れるにも関わらず、うわっ、だせっ、という感じの熱さを見せるのが最近の蜷川さんだと思われる。それにしてもアイディアのいくつかはすでに見たことのあるものなのだが、全体としては見たことのない新しさを感じる。すごい人だ。

今回は席が3列目だったため、かえって水面に覆われた舞台面の美しさを見られなかったことが残念であった。

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コメント

こんにちは。TBありがとうございます。
救急車のサイレン、やはり演出でしたか。2列目下手端席だったので駐車場の様子がはっきりと見えず、どうなのかなーと思っていました。今回の演出で観劇するなら、ステージに近すぎないほうがよさそうですね。鬼気迫る大竹さんを間近で観られるのは嬉しいけれど、水面が見えないのはやはり勿体なかったです。

自問自答しながら嘆き苦しんだ後、殺害を決意して顔を上げたメディアの目が”母”から”復讐する女”に変わった瞬間、ゾクリときました。蜷川さんがおっしゃる「加害者を演じられる女優」の意味というか、大竹さんを選んだ理由が分かった気がします。

※別のエントリーにTBが飛んでしまったようですので、再度飛ばしてやって頂けると幸いです(^_^)

投稿: 優 | 2005/05/23 12:15

優さん、TBの件すみません。再度TBいたしました。「蛇よ!」から今回の「メディア」まで幅広い役柄を演じられる、すばらしい女優さんですね、大竹しのぶ。僕の観た回ではせりふのとちりもまったくなく完璧な出来でした。驚嘆。

投稿: BP | 2005/05/23 18:30

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NINAGAWA vs COCOON\'05 Vol.3「メディア」 Bunkamuraシアターコクーン 2005年5月18日(水)マチネ 14:00〜 作:エウリピデス 翻訳:山形治江 演出:蜷川幸雄 出演:大竹 しのぶ/生瀬 勝久/吉田 鋼太郎/笠原 浩夫/松下 砂稚子/菅野 菜保之/横田 栄司 他 友人の誕生日プレゼントを兼ねた観劇。 この芝居をプレゼントにすると決めた時、ギリシャ悲劇にとんと疎い私はストーリーを全く知りませんでした。蜷川芝居で大竹しのぶ主演というだけで... [続きを読む]

受信: 2005/05/23 12:00

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