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2005/05/29

『その河をこえて、五月』(新国立劇場)

日本・韓国の共同プロジェクトで共催ワールドカップの年、2002年に日韓で初演され、両国で演劇賞を受賞した作品。最近の東アジアの政治状況は憂慮すべきだが、実は今年、日韓友情年、なのだそうだ。そうした政治状況は別にして、この作品自体は素晴らしい両国演劇人のコラボレーションだ。

観劇日:5月22日(日)13:00開演
上演時間 約2時間20分(休憩なし)

新国立劇場の小劇場に入ると、すでに舞台は明るく、上手の満開の桜の木からは、はらはらと花びらが散り始めている。背景には土手。舞台両袖は巨大な橋の橋桁だろう。ソウル市内、漢江の河畔で、韓国語を学んでいる在留の日本人達と、彼らの先生である小説家志望の男、その母、弟夫婦が、一緒に花見をすることになり、次第に集まってくるところから話が始まる。

舞台装置の構造がなぜか、先日観た歌舞伎の「忠信狐」とよく似ているのでおかしくなる。ソウルでは5月が桜の季節ということなのだ。舞台両側に字幕。韓国語のセリフは字幕で訳が出る。韓国での上演では逆になるのだろうな。

韓国語教師、金文浩は、作家になる夢を捨てきれず、いまだに独身。大企業に勤める弟夫婦は、韓国社会の息苦しさに嫌気が差し、カナダへの移民を計画中。しかし母の反対を恐れて言い出せない。今日の機会に打ち明けようと思っている。日本人たちの出自は様々、夫の赴任についてきた久子は日帝時代のソウルに5歳までいたが記憶はあまりない。フリーターや不登校の若者たち。在日の射撃のオリンピック候補、朴は日本アニメ好きの韓国人ガールフレンドと一緒だ。介護用品を扱うサラリーマンの西谷は、国社会に批判的。ついつい悪口を言って、それが伝わり文浩の弟、才浩とぶつかりそうになる。

平田オリザ流のいわゆる「静かな演劇」の調子が保たれており、派手な動きやドラマはないのだが、ひとつひとつの会話や出来事に、日韓関係がかかえる様々な問題が浮き彫りにされており、目が離せない。二時間半近い上演時間も気にならず、集中した。

役者はみなキャラクターがしっかりしており、協力関係もうかがわれるが、特に母親役の白星姫さんが素晴らしい。韓国で400以上の役を演じ、数々の賞を受けている大女優らしいが、実にしっかりとした演技だ。後ろ向きで泣き伏すところなど、顔も見えないのに、感情の起伏が豊かに伝わってきた。

白さんと久子役の三田さんが、手をたずさえて日本の唱歌(浜辺の歌)を口ずさむところはじわっと来て感動的。また最終部、中国から飛んでくる黄砂に言及して、東アジア全体の国際政治を象徴させたところも苦味があってよい。時間があれば、ぜひみるべき、と観劇直後に演劇関連の授業で学生に話したのだが、すでに現在、東京公演は終了してしまった。

それにしても、巨漢の旅行者、桜井の存在はいったいなんだったのだろう。新婚旅行ツアーからはぐれ、ホテルに電話しても、そんな名前の旅行者はいない、といわれる。アイデンティティを完全に喪失してしまった、この男については、謎のまま、話は終わっていく。この人にはどんな意味合いがあるのだろうか。今後考えてみたい。

今後地方講演が数ヶ所であり、首都圏では埼玉県の「ふじみキラリ」で6月19日。その後ソウルで上演されるとのこと。今年、前半の演劇のなかでも自分のベストいくつかに入る芝居だと思う。今後の上演、機会がある方にはぜひおすすめしたい。

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» 新国立劇場『その河をこえて、五月』(作:平田オリザ・金明和/演出:李炳?+平田オリザ) [現代演劇ノート〜〈観ること〉に向けて]
「こえて」いこうとすること再演となる『その河をこえて、五月』は、さしあたり〈文化(間)翻訳をめぐる物語=ドラマ〉といえようが、細かなエピソードやモノを介して展開していく話題の多くは、むしろ花見に集まった様々な人々の間に走る〈境界線〉を次々と浮かび上がらせてしまう。従って... [続きを読む]

受信: 2005/06/02 22:24

» 平田オリザ/金明和作「その河をこえて、五月」 [Wonderland]
 「日韓友情年2005」記念事業の一環として開かれた公演「その河をこえて、五月」は2002年サッカーワールドカップ共同開催の年に生まれ、日本では朝日舞台芸術賞グランプリに輝き、韓国・ソウル公演でも好評を博して権威ある演劇賞を獲得、日韓ダブル受賞となった作品の再演でした(5月12日-29日、新国立劇場小劇場)。作者は日本側が平田オリザ。韓国側は1997年の劇作家デビュー後、立て続けに演劇賞を受賞した劇作家金明和。演出は李炳焄と平田オリザが共同で当たったそうです。  新国立劇場Webサイトによると「言葉... [続きを読む]

受信: 2005/06/03 20:29

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