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2005/04/17

劇団、本谷有希子『乱暴と待機』

若手の注目株とされる本谷有希子のプロデュースユニットの新作。初見。前回までは本人の出演もあったようだが、今回は、これも若手の舞台女優(というかすでにベテランの風もある)馬渕英里何が主演として入り、他3人の役者の4人芝居。これまでで最小の出演者数とのこと。

観劇日 4月13日(水)19:00開演 E列
上演時間約1時間50分(休憩なし)

二段ベッドのある部屋。上段からは斜めの天井に手が届く。クライマックスから始まり、物語の最初にさかのぼって始まる構成。一緒に住んでいる若い男女。女は男のことを「おにいちゃん」と呼び、何かと世話を焼き、冷たくされても嬉しそうだ。男は笑わない。足を引きずって歩く。マラソンする、といっては天井の板を外して屋根裏に入り、女の様子をのぞき見ている。

男の職場はどうやら、刑務所らしい。死刑執行のボタンらしきものを押す業務もあるが男は動じない。同僚は恐がってボタンを押せないが、この同僚が二人の関係に興味を持ち、自分の恋人の女を二人に近づける。

次第に分かってくる二人の関係。幼なじみの二人。同乗した車の事故により、親を失い、足が不自由になった男。数年後に急に自分の不幸が女のせいだと気づき、復讐を果たそうとするが、復讐の方法を思いつかない。中学時代のイジメ体験から、他人の顔色を極端に気にするようになった女。男が復讐の方法を思いつくまで、男と同居してすでに六年。毎晩、寝る前に二人はこんな会話をする。「おにいちゃん、明日は思いつきそう?」「思いつくさ」「そう、よかった」。

馬渕は小柄で美形の女優だが、今までもさまざまな役をこなしてい、うまい。印象に残っているのは昨年の『真昼のビッチ』。狂った少女の役だった。今回も体当たりの演技。普段着が灰色のスウェットの上下、眼鏡、といういでたち。作者の本谷がこの格好をさせたかったというだけあって、なんというか、目が釘付けである。役柄も実にはまっていていうことがない。

やがて、男の同僚がこの女につけ入り、男の不在中に女と関係を重ねるのだが、実は、男は天井裏からそれを覗いているし、女は覗かれていることを知りつつ覗かれていた、ということが明らかになる。そのことがお互いに明らかになった時、二人は別れることを決意するのだが、その夜の会話がいい。すべては「嘘」といいつつ、親密なお互いへの気持ちを口にする二人。

若い作者にありがちな構成の破綻のようなものがほとんどなく、非常にしっかりした構造を持つ芝居であることに驚く。(逆に言うとそのままこじんまりとまとまってほしくない気もするが。)それだけではなく、さまざまな仕掛けもありそうで、読み込んでいけばまだまだ何か出てきそうな謎も持っているという印象を受けた。さすがに力のある人だ。登場人物もすべてキャラクターが際立っている。

覗くことと覗かれることの共犯関係を演劇そのものの構造を暗示し、問い直しているとした松本潤一郎氏の評「現代演劇ノート」に掲載されているが、なるほどと思わされた。それならば、共犯関係が明るみに出た後、女への復讐として、自分を殺そうとした男の行為は、観客の死(不在)こそ、演劇の死であると言っているのだろうか。しかし男が(多分)車にはね飛ばされたと聞いた女が薄笑いを浮かべたままなのはなぜだろう。最初と終幕近くに繰り返されるこのシーンの不可解さが頭から離れない。

松尾スズキの亜流という批判がされてきた本谷だそうだが、女のキャラクターの起源が中学時代のイジメであったらしいことなどもその傾向かと思う。しかしもっと大きな流れとして、松尾世代以降の世代的トラウマとしてはイジメしかないのだろう、という気もする。敗戦、貧困、学生運動、など、上の世代が持っている記憶としての挫折に対して、社会的なマイナス要因が徹底的に排除された現代日本で成長した世代にとって、リアルな挫折体験としてはイジメという非社会的、個的な差別体験のみが、逆説的に頼るべきよすがなのかもしれない。

開演前に客入れをされていたのが本谷さんだろうか。彼女自身も印象的な人だ。役者としての活躍も含めて、今後の作品にも期待したい。
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劇団、本谷有希子
第9回公演 『乱暴と待機』
シアターモリエール 2005年4月8日(金)〜17日(日)
観劇日 4月13日(水)19:00開演 E列
上演時間約1時間50分(休憩なし)

作・演出:本谷有希子
出演:馬渕英里何  市川訓睦(拙者ムニエル)  多門 優(THE SHAMPOO HAT)  吉本菜穂子


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