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2005/03/20

『ホテルグランドアジア』(アジア現代演劇コラボレーション・プロジェクト)

2003年の冬から始まった「アジア現代演劇コラボレーション・プロジェクト」は、Lohan Journey(羅漢の旅)と題されて、7回のワークショップ、リハーサルを経て今回の本公演となったそうだ。テスト公演などもあったようだがまったく観ないまま今回の本公演に足を運んだ。

観劇日 3月16日(水) 19:00開演 全席自由
上演時間 約2時間30分(15分の休憩を含む)

シアタートラムのアクティングスペースがかなり広がり、客席は少なめの階段席で、背もたれもなくなっていた。自由席だったためぎりぎりについた時には席があまり空いておらず、一番後ろの列に席をとる。アクティングスペースはほぼ円形の溝に囲まれた木製の床。この溝には水が浅く張ってある。

この溝の中を俳優が歩いて演技する場合もある。舞台の両側には、やはり木製の軒のような部分が張り出ていて、この軒下がマニラのスラムの家になったり、軒の上が東京のアパートの一室になったり、とアクティングスペースにもなる。本来の舞台背景には大きく字幕が表示されるようになっており、これはとても見やすかった。

シアタートラムはとてもいい空間だな、と改めて思う。この舞台設定は、昨年々劇場で観た『現代能楽集 求塚』にも少し似ており、それを演出し、今回のメンバーにも入っている鐘下辰男氏の影響下にあるのかと思わされる。照明もあいまって美しい空間だった。

日本では劇作家・演出家として活動しているメンバーの川村毅、鐘下辰男両氏もここでは出演者でもある。アジア諸国のメンバーのプロフィールを見ても、劇作家・演出家・俳優と、三つ並んでいる人が多く、「俳優」の肩書きがない人が少ないくらいだ。アジア諸国の現代演劇の現状なのだろう。アジア諸国といっても、参加国はフィリピン・インドネシア・タイ・マレーシア・シンガポール・日本。アメリカ国籍の方も一人。

肝心の物語はかなり難解だった。冒頭に出てくる三人の水夫たちを狂言回しとして三つの物語が同時に進行する。フィリピンから東京に密航し水商売で稼ぐゲイのグマメラの話。日本人の客といい仲になるが、男であることがばれてしまう。この話はやけに俗っぽい。出演している川村毅氏の芝居にありそうな雰囲気。グマメラはたとたどしい日本語で話す。

同じフィリピンに観光客としてやってきたシンガポールの演出家アイヴァンはスラムの住人に騙されて歓待され、身ぐるみはがされてしまう。アイヴァンは観客向けには英語で話し、通訳の女性が現れて日本語になおす、という語り。フィリピン人とは英語で話し、字幕が出る。そういえば、劇中で出されたフィリピンの食べ物を観客にも勧めるシーンも。

このふたつはわかりやすいがメインになる男(鐘下)と女(ナルモン・タマブルックサー)の話が難解だ。配付されたシーンリストによると「男と女がゲームをはじめる」となっていて、男と女がホテルの部屋に閉じこめられ、そこで配役を決め、夫婦となり、夫が飛行機のテロで死んだ、という設定になる。盲目のムスリムなど、何人かの登場人物があらわれ、女はやがて自爆テロリストとなるのだが、このストーリーのつながりや意味するところがよく読み取れなかった。ここはまさに鐘下風の芝居の作りだ。

休憩をはさんで二幕になると昨年末の津波のシーンがあったり、三人の水夫が「ビーマ」という神話(予備知識がなくわかりにくかったのは残念)を舞踊を交えながら語るシーン(例のインドネシアの「影絵」を人で行うという趣向もあり面白い)もある。が、物語がどのように収束し終幕にいたったのかももうひとつ納得できなかった。

ここにあるのは、確かにアジア現代演劇の様々な表現方法のエッセンスではあると思う。また「テロリズム」「移民」「アイデンティティー」という三つのテーマを軸にしていると聞けば、そうなのだろう、とも思う。が、あまりに散漫に広げられてしまったそれぞれの要素の羅列のように思われ、何かしらの感慨を抱くことはできなかった。

この、リーダーを決めずに、共同作業の中でひとつの作品を作り出していくというあり方には、基本的に疑問を感じる。共同作業やワークショップのなかから生み出されてくる面白さというものは確かにある。しかしそれを観客に伝わるカタチにするには、やはり全体の統括者として、すべてをコントロールしていくリーダーが必要なのではないか。いたずらな平等主義は失敗するという例に、今回の公演はなってしまったのではないかと危惧する。(まあ、川村さん、鐘下さんと、自分があまり合わないなあと思っている演出家の影響の強い芝居であったこともあるが。)

昨年の『赤鬼 タイ・バージョン』に出演していた、ミズカネ役のプラディット・プラサートーンさんが水夫役、村人役のナルモン・タマブルックサーさんがメインになる「女」役で出演されていたのが懐かしかった。それとゲイのグマメラ役のハーパート・ゴーさんは哀切のある演技で印象に残った。
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『ホテルグランドアジア』(アジア現代演劇コラボレーション・プロジェクト)
シアタートラム 2005年3月8日〜17日(木)
観劇日 3月16日(水) 19:00開演 全席自由
上演時間 約2時間30分(15分の休憩を含む)

構成・演出・出演:ローハン・ジャーニー・メンバー
アズザン・JG(インドネシア)/ディンドン・WS(インドネシア)/ロフマッド・トノ(インドネシア)/ジョー・クカサス(マレーシア)/ナム・ロン(マレーシア)/ロー・コック・マン(マレーシア)/ハレーシュ・シャーマ(シンガポール)/アイヴァン・ヘン(シンガポール)/ジョシュ・フォックス(アメリカ)/ホセ・エストレーリャ(フィリピン)/ロディ・ヴェラ(フィリピン)/ハーバート・ゴー(フィリピン)/ナルモン・タマプルックサー(タイ)/プラディット・プラサートーン(タイ)/川村毅(日本)/鐘下辰男(日本)
 

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