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2005/03/12

『壁ー占領下の物語Ⅱ』(東京国際芸術祭+アルカサバ・シアター)

昨年の東京国際芸術祭で、来日した同劇団の『アライブ・フロム・パレスチナ』を観た。イスラエルとの紛争が続く、パレスチナ国家の生活の現実を、コント風の短いスケッチをつなげる手法で描き、印象に残った。同劇団が今年は芸術祭サイドと共同で新しい作品を製作したという。テーマは「壁」だ。

観劇日 3月10日(木) 19:30開演 D列
上演時間 約1時間15分程度

「僕は壁が大好きだった」という男が現れる最初のシーンでは、「壁」はエルサレム旧市街を囲む城壁なのだが、それはすぐに、イスラエルがパレスチナ自治区の分断縮小のために現在建設を進めている、分断壁のこととなる。この「壁」によってパレスチナ住民は交通や経済に大打撃を受け、日常生活さえままならなくなっている地区もあるという。

最初にこのニュースを知った時には、人類の愚かさ加減に本当に暗澹とし、今もしている。ベルリンの壁が崩壊して15年、新世紀になって、同じ愚行を、歴史上最も迫害される苦しみをしっているはずのイスラエルが繰り返すのだから。この作品は、その分断壁のもとに暮らす人々の生活をモチーフにしている。

今回の座席のD列というのは最前列なのだが、この上演にとってはあまりいい席ではない。字幕が、舞台の両わきの縦の電光掲示板に表示されるからだ。最前列のまんなかに座ってしまうと、字幕を読むために極端に右端か左端を向かなければならない。この視線の移動が辛いし、舞台の役者さんの表情や演技を見逃してしまうことが多い。

字幕の質もあまりよいとはいえないと思う。字数制限など数々の制約があるのはわかるが、明らかに役者さんのセリフとずれていると思われるところもあるように感じた。例えば、「問→答」という流れの字幕を二行に入れて一度に表示してしまうと、「答」の部分があらかじめ分かってしまって、面白さが半減してしまう。新作ということで準備に時間がないとは思うが、もう少しよいものにできるのではないか。こうしたことも含めて、言葉の「壁」がなければもっとセリフの妙や登場人物の物語が理解できただろう。それが残念。アラビア語は音楽的といわれるように響きを聞いているだけで確かに美しいのではあるが。(費用がかさむため難しいのかもしれないができればイヤホンガイドの同時通訳をつけるべきではなかったか。この字幕の位置は本当に厳しかった。)

しかし字幕の設置場所については、舞台装置から考えて仕方のないことかもしれない。がらんとした舞台の背景に、パークタワーホールの高い天井に届こうかという、「壁」のセット。スティックのような縦長のユニットが、最初は横に繋がって並べられ、巨大な壁となっている。キャスターがついているのだろうか、役者の手によって、さまざまなかたちに移動し、あるときは丸く舞台を囲むように、ある時は森の木のように不規則に置かれたりして、情景をつくっていく。これに照明の変化が加わって、全体的に情景は、暗いなかにもとても美しく、しかし「壁」という意味を考えると厳しく重い。美術は日本人アーティストの椿昇さん。

独白を中心としたスケッチ風のシーンの連鎖で劇を作っていく手法は昨年の『アライブ・・』と同じ。しかし今回は、役者達の演奏による音楽と歌がスケッチをつないでいく。アラブ的な音のする弦楽器(ウードというのだろうか)とタンバリンなどの簡単な打楽器だけの演奏だが、これが詩的でとてもいい。

また、今回は単なるスケッチ集ではなく、何人かの同じ登場人物達が繰り返し現れ、いくつかの物語が見えてくるようになっている。アラブ馬と一緒にイギリスに渡航しようとする競馬好きの男。ブランドファッションの店主から「壁」のために店を失い、日用品を売り歩くしかなくなってしまう女。などなど。

日本の生活からすれば、驚天動地だったり、噴飯物だったりもする様々な現実を、ユーモアを交えて語っているが、それぞれの話が最後には、悲しい現実にたどり着き、いいようのない思いに満たされる。「壁」を越えておばあさんの家に行く女の子を「赤頭巾」にした趣向も面白かったが、圧巻は死んだ男が「ハムレット」の「生きるべきか死ぬべきか」のセリフを語り始めるところ。

イスラエルに殺されたのだろうか、銃撃されて死んだ男が「壁」のセットに立ったままよりかかるかたちで、シーツを巻かれ、横たわる死者を俯瞰で見ているようなシーン。父の墓に葬ってほしい、と遺言を残したその死者に対して、残された友人(?)は、迷惑だ、と吐き捨てて去る。父親の墓は「壁」の向こうにあるからだ。残された死者はあの「ハムレット」のセリフを語り始める。「存在 するかしないか、それが問題だ(字幕はこんな感じに訳されていた)」そこからしばらくは「ハムレット」の煩悶のセリフが原作のまま続く。よく知られたセリフが全く違う意味合いを帯びて、立ち上がってくるのには驚いた。生も死も、パレスチナの現実のなかでは、苦しみ。

スケッチをつなぎながらもいくつかの物語を暗示させ、結論を出すわけでもなく余韻を残して終わっていく。これは1月に観た「燐光群」の『屋根裏』と非常によく似た手法であることに気づいた。坂手洋二とアルカサバ・シアター。面白いつながりだ。

役者さんたちについては、声からも肉体からも鍛えられた強さのようなものを感じた。初日で不安そうな面もかいま見えたが、三回の熱心なカーテンコールにほっとし、また驚いた様子で笑顔も出た。作・演出のイブラヒム氏も舞台にあがって嬉しそうだった。

ロビーでは昨年の『アライブ・・』と、同じ中東シリーズで上演されたクウェートの『アル・ハムレット・サミット』のDVDが販売されていた。いずれも2000円と記憶する。その他、スタッフが訪れたパレスチナの写真スライドの映写など、いくつかの展示もされている。
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『壁ー占領下の物語Ⅱ』(アルカサバ・シアター[パレスチナ])
東京国際芸術祭+アルカサバ・シアター
作・演出:ジョージ・イブラヒム
美術:椿昇
照明・音響:モアッズ・ジュバ 
出演:マフムード・アワド フサム・アブエシュ イスマイール・ダバーグ イマッド・アルファラージン ドリーン・ムナーヤー アハマド・アブサローム マナル・アワド

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3月10日から6日間にわたり東京・西新宿のパークタワーホールで行われているパレスチナ劇団「アルカサバ・シアター」による「壁-占領下の物語Ⅱ」を観劇してきた。20... [続きを読む]

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