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2005/03/07

ク・ナウカ『山の巨人たち』

終演後、出口でもらったパンフには「この公演の内容は、決して、これからご覧になるお客様にはばらさないでください。」とあった。もう公演期間も終わったようだし、書いても大丈夫だよね? 

観劇日 3月3日(木) 19:00開演
上演時間 約1時間50分程度?

ピランデルロの『山の巨人たち』がク・ナウカ風の二人一役で始まる。イルゼ役の女優の人形ぶりに集中して観ていると、少し進んだところで、突然客席で怒号が聞こえる。舞台での演技が演出の宮城によって止められ、客電もつけられると、白塗りの人物たちが舞台に上がってくる。実は同じピランデルロの『作者を探す六人の登場人物』への導入なのである。

〈登場人物〉たちは舞台にしつらえた額縁のなかにおさまる(二人の小さな子どもは人形)が、〈ク・ナウカの代表である演出家、宮城聰〉に自分たちの物語を上演しろとせまり、問答が起こる。宮城はあくまで素の演出家のようにふるまい、しぶしぶといった感じでその芝居を上演することを肯い、いままで『山の巨人たち』を演じていた他の役者たちもも、素にもどって、宮城と〈登場人物〉たちのやりとりを見守ったり、宮城の演出に従って、その物語を演じてみたりする。

一度長い暗転があり、〈役者たち〉は消え、〈登場人物〉たちは演じ出し、〈演出家〉とのやりとりが続く。何かの企みのある上演であることは聞いていたし、客席でごたごたが始まっても、声を上げている人々が白塗りなのだから、これが企みのもとにある異状であることはわかっているのだが、それでも、かなりびくついてしまった。それまでのク・ナウカ風『山の巨人たち』が様式性を帯びていたのに対して、この〈登場人物〉たちがやけに生々しく、現代日本の「娘の援交の相手が父親だった」風な味付けにされていたからでもあろうし、声の響きがかなり悲痛だったこともある。

宮城は最初、あくまでおたおたする素の演出家を演じ、客席に向かって、いろいろとエクスキューズを述べるのだが、芝居とわかっていても、どこかにおいおい、いい加減にしろよ、とむかついている自分もいる。上演後配付のパンフにそのあたりの目論みが書かれている。「このやり方は『作者を探す六人の登場人物』を書いた時点でピランデルロの目指したインパクトを、こんにちの劇場で実現するためにはどうしたらよいかを考えた末に選んだものです。」とある。

妻の発狂にまつわる凄惨な実生活からきた「自暴自棄に近い自己否定、いや自己断罪、そして演劇否定」として書かれたはずなのに、「演劇を延命させるカンフル剤」となってしまったこの作品。その「ぞっとするような矛盾の輝きを、ほんのすこしでも、こんにちの観客の皆さんに伝えられることを心から願っています。」とパンフの文章(宮城)は閉じられている。

ふむ。『作者を探す六人の登場人物』の他の上演は観たことがなかったので、確かにすごいインパクトだった。書かれた人物たちが演出家を糾弾し、作者を断罪する。その否定の力のおぞましさというか、演劇という制度にのっかって安心しようとする自分の根底からゆさぶりをかけられてしまい恐怖さえ感じた。安全な客席から舞台を俯瞰するという特権を剥ぎ取られてしまったからだろうか。ハプニング的な要素や言動に、声高に笑う人たちもいたが、とてもそんな気にはなれなかった。

少なくとも私に対しては〈企み〉はこんな感想を生み出した。ちょっとトラウマチックに負のエネルギーを浴びせられてしまった感じ。自分が「演劇の奥底にあった魅力」に到達できたかどうかはちょっと疑問だが、揺さぶられ度は非常に高かった。

内容とは関係ないが、隣りの座席の男性が上演中足を大きく広げてだれた格好。上演前後に声高に話す人も。こういう迷惑行為まで、まさかしこんだわけではないですよね? 
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ク・ナウカ『山の巨人たち』→『作者を探す六人の登場人物』
2005年2月25日(金)〜3月6日(日) ザ・スズナリ
観劇日 3月3日(木) 19:00開演
上演時間 約1時間50分程度?

作 ルイジ・ピランデルロ
翻訳 田野倉稔
演出 宮城聰
演出・美術 深沢襟
キャスト
『山の巨人たち』
コトローネ  大高浩一(藤本康弘)
イルゼ 諏訪智美(本多麻紀)
住人たち 奥島敦子(宮城聰) 黒須幸絵(高橋昭安)本城典子(末廣昌三)
『作者を探す六人の登場人物』
演出家 宮城聰
演出助手 冨川純一
父 吉植荘一郎
母 鈴木陽代
娘 布施安寿香
息子 佐々木リクウ
マダム・バーチエ 奥島敦子

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