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2005/02/22

阿佐ヶ谷スパイダース『悪魔の唄』

ひさしぶりに非常に集中して観ることの出来る芝居に出会った。おどろおどろしい題といい、「ホラー」作品とのうたい文句といい、あまり得意ではない分野だと踏んでいたのだが。

観劇日 2月21日(月) 19:00開演 O列中央ブロック
上演時間約2時間30分程度(休憩なし)

若手の作・演出家として勢いのある長塚圭史が主宰する阿佐ヶ谷スパイダースの本公演。今回のキャストの目玉はシェイクスピア劇の俳優として著名な吉田鋼太郎だろう。この吉田さんと「大人計画」の伊勢志摩さんが夫婦(山本壱朗、愛子)で、夫の浮気のために精神を病んでしまった妻を連れて人里離れた古い洋館に療養に来るという設定。

洋館には正体不明の牧田という夫婦(長塚圭史、小島聖)や、妻をひきとろうと追ってきた妻の弟(池田鉄洋)が現れるのだが、最も驚くべきは60年前に戦死した旧日本兵3人(伊達暁、山内圭哉、中山祐一朗)がゾンビとして現れるということである。荒唐無稽で、また不謹慎とも思われる戯画化された設定であり、ゾンビたちの行動も人間側の反応も、恐怖というより滑稽さが目立つのだが、違和感なく受け入れられてしまうのはなぜだろう。丁寧な感情や行動の見せ方によるものだろうか。

死してなお、無辜の日本人を大量虐殺したアメリカに対して一矢報いようと、愛子を(合意のうえ)人質にとって、爆撃機の手配を要求する日本兵たち。愛子はやがて自分も日本兵の一員だと思い込んでしまう。

吉田さんがシェイクスピア劇では見せない、普通の現代日本人の情けない男の無様さをとてもうまく演じている。現代の病んだ夫婦関係の狂気と、悲しく滑稽な旧日本軍のゾンビたちの狂気、あるいは正気。この二つが重ね合わされて対比されるとなんともいえない、切ない気持ちになる。

ゾンビたちの中にも、家族を思って戦った者もいれば皇国日本の誇りにこだわる者もいて一様ではない。やがて牧田夫婦のおどろくべき秘密も明らかになる。山本は、愛子を開放してもらうために、要求を飲んだと思わせ、弟の紀行(のりゆき)とゾンビを退治する計画を案じるが。…

ホラーらしく、不気味なシーンもいくつかあるが、それでも、これは無闇に人が死んだり恐がらせたりというホラー作品とはまったく違うウェルメイドな寓話であり、社会派作品でもある(遠い席だったので血のりその他、その不気味なしかけがあまりよく見えなかったがゆえに拒否感が薄いのかもしれないが)。しかも、ホラーらしく、いくつかの伏線、しかけもあり、冴えている。

旧日本兵の扱いについては、歴史考証からすれば不自然な面も多々あるのだろう(なにしろ現代語で話したりするし)が、そこにこめられたあの時代の、今からすれば狂気ともなりかねない切実さ、誠実さともいえる激烈な生き方と、完全に病んでしまった、現代日本の個人の苦悩を同じ舞台に同居させられると、この60年間の日本国における時の隔たりと繋がりを重い、深く心をえぐられる。

すべての出演者の演技が印象的でバランスがよく、また舞台美術(加藤ちか)、照明(佐藤啓)も秀逸。時間さえあればリピートしたい芝居だ。重いテーマゆえかカーテンコールもなく客電がつくが、拍手がなりやまず、一度だけ出演者が舞台に戻ってきた。客席は当日券の補助席も出て満杯。

なお、パンフレット(2000円)には、脚本全編が収録(黒字に小さな銀文字でちょっと読みにくいが)されている。
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阿佐ヶ谷スパイダース「悪魔の唄」
本多劇場 2005年2月17日(木)〜3月2日(水)
観劇日 2月21日(月) 19:00開演 O列中央ブロック
上演時間約2時間30分程度

作・演出 長塚圭史
出演 吉田鋼太郎 伊勢志摩 小島聖 長塚圭史 池田鉄洋 伊達暁 山内圭哉 中山祐一朗

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