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2005/02/11

『コーカサスの白墨の輪』(世田谷パブリックシアター)

この劇場が対面座席に設定されているのを初めてみた。客席が円弧を描いているので、ちょうど丸く舞台(といっても客席の床と区別がない、まるい広場のようだ)を囲むかたちとなっている。

(観劇日 2月9日(水)14:00開演 4列中央ブロック)
上演時間 約3時間20分(15分の休憩を含む)

本来の舞台側に設置された客席は、本来の客席がF列から始まっているのに対して1列、つまり番号で始まっている。そちらへわたるには舞台となる中央の丸いスペースを通っていかなければならない。開演前はこのスペースで、1500円のパンフレットを売っていた。ロビーでも売っているのでそこで見本を見て、迷ったまま買わずにいたので思い直し、ここでパンフを買う。

はい、と渡してくれた人の顔を見てびっくり。毬谷友子さんではないか。「弥々」の時に間近には見ているが、ここまで対面は初めて。この人からは何か神々しいオーラがいつも出ている。緊張してしまい何も話せない自分(笑)。ドキドキしながら席に着く。客席と舞台の境界をあいまいにしようという作戦(?)に最初からひっかかってしまった。

席について、本来の客席や本来の舞台天井を見上げる。美しい劇場だ、と思う。プロセニアムの舞台上から見るとこのように壮観なのか。(ここの劇場もバックステージツアーをやっていたはずだ。今度参加してみよう。)3階席には客をいれていないようだ。

開演時間が近づくにつれ、次第に出演の役者さんたちが舞台に集まってくる。いつのまにか松たか子も谷原章介も串田和美も現れている。外国人の役者さんが(日本語で)谷原さんに「昨日見たよ」と声をかけているのが聞こえる。彼の出演している深夜番組のことらしい。偶然にも自分も昨夜流していたことを思い出す。やがてパンフ売り場は片づけられ、役者さんたちは舞台を囲むように座り、音楽と語り担当の朝日奈尚行さんがiBookを持って現れ、「演劇、やりますか」と串田さんと話し出す。しばらくの会話の後、物語世界が始まる。

知事に仕える台所女中グルシャ(松たか子)は、兵隊のシモン(谷原章介)と婚約するが、反乱によって知事が殺されたため、逃亡した知事夫人(毬谷友子)が置き去りにした赤子ミカエルを拾い、世話をしながら追ってを逃れて逃亡する羽目になる。一度はミカエルを他人に託そうとしながらできず、様々な苦労をしながら兄のいる山里にたどり着く。が兄嫁の手前兄の家には住めず、生活のために瀕死の男と結婚式をあげ名目上の妻となるが、男は息を吹き返してしまい、望まぬ結婚生活を強いられながらミカエルを育てる。やがて、反乱によって亡命していた大公が戻り、体制は元に戻る。知事夫人は亡き夫の土地財産を手に入れるためにミカエルを取り戻そうとする。

これと並行して、反乱の混乱の中で裁判官に担ぎ上げられた酒浸りでわいろ好きの裁判官アズダックの話があり、最後にアズダックの裁きによって、ミカエルがどちらの子であるかの判断が下されることになる。

ブレヒトだから音楽劇である。実際のグルジア地方の楽器なのであろうか、中央アジア的な感じのする音楽と低い音のハミングを主調とした合唱とが特徴的。学士さんたちは、普段ならプロセニアムに当たる部分に作られたバルコニーのようなところにいる。アズダックの歌うHIPHOPのような曲もあった。松たか子や毬谷友子の歌唱力はいうまでもない。生演奏はとても楽しめた。

休憩時間にはステージでグルジアワインの販売がある。小さなチーズ付で300円。アルコールに弱いので、これで終演まで身体がほかほかしていた。休憩時間には出演者の歌の披露も行われる。二幕の最初の場面はアズダックの裁判の様子なのだが、この場面には観客の何人かも傍聴人(というより群衆という感じだが)として参加している。

事前に聞いた時は、ワインを飲んでいると客席に戻れなくなり、強制的に参加させられるようなことなのかと思っていたがそうではなく、役者さんのファンの人だろうか積極的に参加していたし、最前列や通路側の人たちに、参加しませんか?と役者さんたちが呼びに来るのだ。ワダエミさんの美しい民族的な衣装の役者さんたちと普段着の観客が混じっては落差があるだろうと思っていたのだが、意外と見た目にも違和感がなかった。この場面では被告人の「どすこい」という足踏みに客席から飛び上がる反応をしてほしい、と頼まれたり、観客参加型の雰囲気を徹底して醸し出している。

最後の裁判が終わった後の踊りの場面でも客席からの参加を促される。松たか子や谷原章介と一緒に手を繋いで踊れるというわけだ。全体を通じて強制するのではなく、しかし楽しい雰囲気があるのでノリのいいお客は出ていくという感じだったので自分なりのスタンスで楽しめばよかったので気が楽だった。(自分もどちらかというとこういうのにノリやすいタイプなのだが列の中央の席でもあり、出ては行かなかった。踊れないしね。)

こうしたボーダーレスなあり方は観客の立場からすれば別の意味で「非日常」であり、気持ちを高揚させるには十分だ。北海道でのワークショップで作られたという野外劇の様相を伝えており、共同体の祝祭という演劇の元の姿をかたちだけでも示そうとしたあり方なのではないだろうか。これ自体には好感を持った。確かに夏の夕方、森と草原に囲まれた野外でこんな劇を観られたらすこぶるいい気持ちになるだろう。

ただ、それと同時に、本編の劇が、素人臭く感じられてしまったのも事実である。ひとつにはネット上でも意見がみられるが、外国人の俳優さんがたどたどしい日本語のセリフを話したため、そこに感情がこめられたように思えなかったことが大きいだろう。演出それ自体が戯画的な演技を要求していたようにも思う。登場人物は類型化していてコミカル。あのコクーン歌舞伎にも出てきたようなとても小さい家のセットなど、面白くて好きだが、やはり漫画チックである。

グルシャの内面の葛藤やシモンとの間の気持ちの揺れのような心理的側面には重きを置いていないようだ。これはもともとの戯曲の問題も含めてのことかもしれない。しかし、アズダックの語る戦争の責任をとらない権力者たちへの揶揄は、昭和天皇の戦争責任のことを思い起こさずにはいられない普遍性?を持ったものだし、グルシャの結婚式と夫の葬式とが同時に行われることの不気味さなど、見どころはあるのだ。そのあたり、今度は客席に座っている自分の存在など忘れ、劇中世界に没頭する、そういう状態ももっと観客に与えてほしかった。山関さんのいう足りなかった「非日常性」とはそういうことではないのだろうか。

この「コーカサスの白墨の輪」という戯曲自体も、長く、複雑で多面性をもっており、またブレヒト劇の特長であろうか、語り手が現れ場面転換や時間経過を説明することも多く、白墨の輪の中の子どもを両方から引っ張るという「大岡裁き」のエピソードはむしろ最後の付け足しのようにある。こうしたことがさらに劇的世界への観客の没入を妨げる要素としてあるのではないだろうか。

松たか子さんも毬谷さんもとても上手な俳優さんなのだが、心理的な演技はあまり要求されていないようで、演技というより、技術を見せる感じになっている気がした。もっともっとやれるのに、という印象。(もちろん赤子の声から老婆の約までこなす毬谷さんの声の技巧は特に素晴らしい。)谷原さんは出番が少なくて残念だ。あのすがすがしい青年兵をもう少したくさん見たい。

外国人の俳優さんは、芸達者で楽士も兼ねている場合が多いので、できれば音楽部分の担当と、ほんの受け答えだけのセリフに留める。そして、開演前や休憩時のボーダーレスな雰囲気と、本編の劇中世界との落差をもっとつけて、本編にさらに集中できる工夫をすれば、もう少し感慨が深いものになるかもしれない。

それにしても日本の「大岡裁き」の方は、実際の生みの親の方が子どもが可愛そうだから手放す気持ちになるわけだが、この話では生みの母は財産のために手放さず、育ての親の方が情が深いという設定。そのあたりも興味深い。

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コーカサスの白墨の輪
世田谷パブリックシアター 2005年1月30日(日)〜2月20日(日)
(観劇日 2月9日(水)14:00開演 4列中央ブロック)
上演時間 約3時間20分(15分の休憩を含む)

原作 ベルトルト・ブレヒト
翻訳 松岡和子(エリック・ベントレー版より)
演出・美術 串田和美
衣装 ワダエミ
音楽 朝日奈尚行

出演 松たか子 谷原章介 毬谷友子 串田和美 他多数

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コメント


コメント、トラックバック、ありがとうございました。
(お礼が遅くなって、すみませんでした)

あいにくのところ、現在、原稿と職業観劇、ブログの更新に追われ、余裕がありません。

お礼のみで失礼します。

(追記)
私の文章と関連づけて、言及していただいた点についても、感謝しています。

自分を相対化するのに役立つからです。

ありがとうございました。

投稿: 山関英人 | 2005/02/17 11:12

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