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2005/01/30

新国立劇場『城』

「舞台芸術の小窓」の山関英人さんが、「トーキョー/不在/ハムレット」とワークショップ公演であることなどの共通性を指摘していらっしゃったので、「トーキョー・・・」が楽しめなかった私は、上演時間の長いこともわかっていたため、かなり不安になりながら、週末の新国立劇場に向かった。

(観劇日1月28日(金)18:30開演)

前夜の寝不足がたたったか、行きの地下鉄でうたたねし、一駅乗り過ごしてしまう。しかし時間には十分間に合い、おかげで睡眠不足も解消され、万全である。

感想としては、かなり面白かった。不安はあたらなかった。「トーキョー・・・」とは印象がまったく違った。昨年、教育テレビでちらっと観た、同じ演出家の「AMERICA」とも印象がかなりちがった。同じカフカのテキスト、構成法など似ているのだろうが、劇場で観ることによって、印象がまったく異なるということだろうか。

まずは、空間の作り方が客席とのボーダーを感じさせない作りになっている。プロセニアム形式ではなく、客席の中央に花道のような通路を作り、前列の客席の床と舞台はほぼ段差がない。私は三列目で、この中央花道のすぐわきだった。花道から出入りする俳優を間近に見られる上、すぐ脇の花道の床に扉がついており、ここを下から開けてぬっと登場してくる人物たちもいる。舞台は三層構造になっており、二階、三階で演技が行われることもあり、この場合は、一階席からは遠く感じるが、Z席など、通常は見にくい席から逆に見やすかっただろう。この客席を取り込むような空間の作りが劇空間へ親密性をもたらしてくれた。

井出茂太の振付による、一種のフィジカルシアター的な面白さ、これは「トーキョー・・・」のニブロールの振付が物語性をほとんど帯びていなかったのに対して、俳優相互の空間的な位置どりや仕草が日常生活的なものを取り入れられていることもあり、ユーモラスでありながら物語性を帯びていて、しっくりとしていた。

ユーモラスといえば、カフカのテキスト自体がもともともっているのだと思うが、いろいろなところにユーモアがあってこれも楽しめた。ほぼ最終部分、松浦佐知子さん演じる衣装オタクの酒場のおかみさんの挿話などは散漫なエピソードにすぎないはずなのに実におかしい。またワークショップの途上で作り込まれたのだろう、ちょっとした小ネタが、いくつも仕込まれていて、何気なくそれらをやっているのだが、気がつくとおかしくてしかたがない。

演出の松本修氏は文学座出身だが、出演俳優は、状況劇場、天井桟敷、早稲田小劇場、オンシアター自由劇場、蜷川カンパニー、夢の遊眠社、第三エロチカ、青年団と出身は実に様々。テレビ、映画タレントやプロレス出身の方まで入っている。年齢層が多岐にわたるということもあるが、非常に重層感があり、また、大人の身体だな、という印象を受けた。「トーキョー・・・」の俳優たちが若者中心でいわば子供っぽく、映像的な無機質な演技である印象を受けたのと対照的だ。

映像といえば、こちらはときどき舞台上方に出てくる字幕の他には映像らしきものはいっさい使われていない。最近、観る舞台には映像が多用されるものや、とってつけたように映像を使うものが多く、辟易としていたので、これはよかった。「トーキョー・・・」は半分以上、モニター越しに演技を見せられたわけで、そういう意味では視点を固定される暴力にさらされた感じだ。(それを意図してやっていたということだろうと思うが)

こちらはほぼ純粋に身体と空間で魅せてくれるところに好感を持った。天井桟敷の寺山芝居をどこか彷彿とさせるような(あそこまでおどろおどろしくはないが)いわゆるアングラの匂いがする演技の作りが、寓意的なエピソードに終始するカフカの世界にあっている。

それに衣装がすばらしい。さまざまなシーンで目を引いた。衣装も含めて、一番印象に残ったシーンは二幕最初の方の「消防団の祭」の劇中劇シーン。二階に現在時の主人公や登場人物の家族を配置し、その家族の三年前の出来事の回想シーンが一階で演じられる。消防団員たちの赤で統一された衣装の色彩の美しさと、祭りのダンスの華やかさ、そしてその日がもたらした悲劇によって不幸に落とされた家族の現在の悲哀を同時にみることができる、なんともいえない美しいシーンだ。

フリーダ役の石村実伽さんの珍しくフェミニンな謎の女の役、体当たりの演技にも恐れ入ったが、非常に魅力的だった。舞台で香水をつけることがどうなのかはよく知らないが、彼女が近づくと香水の匂いが漂ってきて、それも神秘的だった。

ちょっと気になったのは、字幕の存在。最初のうちは物語の筋を補足していくのかと思ったが、途中からカフカの名言集?のようになってきて、まあ面白かったが、帰宅してから録画してあった「AMERICA」を見直していたら、ほぼ同じ言葉が使われているようだった。転換中のちょっとした目休め?としては悪くはないのだが・・・。

あとやはり上演時間3時間40分以上というのは観る側にとっては厳しい。最初は三幕構成だったそうだから、休憩二回でもよかったかと思う。二幕の方が長いので内容が面白くてもどうしても最後は集中力を欠いてしまう。ワークショップで作る公演はカットするのがたいへんなのだろうが、長いなら休憩を二回入れてもらったほうが助かる。構成上のことなどいろいろあるのだろうが、このへんは考えて欲しい。

蛇足だが、昨年8月、ベニサンピットに「カモの変奏曲」という芝居を観に行った時、開演前の客席で、カフカの「城」を一生懸命読んでいた若い女性の方がいた。きっと今回の出演者のお一人だったんだろう。あのころからやっていて、やっと出来たんだね。

それにしても、この話の主人公Kはモテ過ぎる。どこにいっても女性に関心を持たれていいよられ、自分もまんざらでもなさそうだ。これってカフカの夢?それとも現実? いずれにしても、うらやましいぞ、K。

「トーキョー/不在/ハムレット」の感想記事はこちらへ

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新国立劇場・城
新国立劇場小劇場[THE PIT]
2005年1月14日(金)〜1月30日(日)
(観劇日1月28日(金)18:30開演)
上演時間3時間45分程度(15分の休憩含む)
パンフレット800円

原作:フランツ・カフカ
構成・演出:松本修
美術:島次郎
照明:沢田祐二
音楽:斉藤ネコ
音響:市来邦比古
衣装:太田雅公
ヘアメイク:林裕子
振付:井出茂太

キャスト:田中哲司 石村実伽 他多数

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