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2004/12/23

NYLON100℃『消失』

この冬一番の空気の冷たさ。祝日の新宿に出て、ナイロン100℃の「消失」を紀伊国屋ホールにて。ケラ作の芝居は今年、「カメレオン・リップ」、「男性の好きなスポーツ」に続いて、三度目の観劇。上演時間2時間40分と相変わらずの長さで、休憩なしはさすがに椅子の古い紀伊国屋ホールではツライ。

他の二作は3時間を超えていたが、インターミッションがあるので長さはそれほど感じなかった。ネットではなかなか評判がよく、確かに緻密な構成と上手い役者で、後半の恐ろしさにぐいぐいと引っ張り込まれる。が、「男性〜」ほどの衝撃はなかった。

設定は近未来のSF的。戦争が終わり、その傷跡が残り、生活インフラも整備されないどこかの国。戦争前に、コロニーとして打ち上げた「第二の月」が本物の月と一緒に夜空にかかる。マーティン・マクドナーの「ピローマン」や、ゲーリー・オーウェンの「溺れた世界」を思い出させる。こういう荒れ果てた世界が洋の東西を問わず、今日の近未来像なのだろうか。そこでは死んだ子どもや弟の代わりを果たす、人造人間(ロボットかアンドロイドか?)の闇ビジネスが横行している。登場人物は皆、どこか子ども時代からの傷をかかえ、と考えるとこれまた「ピローマン」と同じ世界だ。が、「ピローマン」が陰惨でありながら、救いを提出しているのに対して、こちらはなんの救いもなく、「消失」のみがある。

あからさまに設定を語らず、最後まで観客に類推させていく手法は上手い。暗転の間に映像を使用する手法もおなじみのものだ。ただ、どうも、ケラにしろ、松尾スズキにしろ、「演劇」でしかできない、ということに対してのこだわりはないように思える。そのあたりが上の世代にあたる野田秀樹や永井愛の舞台とは大きく異なる点ではないだろうか。それはテレビが生活を次第に占領していった経緯を知るものと、物心着いた時にはテレビが生活の中心にあった世代との違いなのかもしれないが、演劇を観た、という満足感からすると自分にとっては劣るのだ。そんなことを考えさえられた。

確かにストーリーの構築はスキがなく上手いが、「男性の好きなスポーツ」でみられた、人間の性(生)と死との本質的な関わりに切り込んだような、斬新な視点がないのは少し残念である。大倉孝二さんが好演。客演の八嶋智人さんはおなじみのキャラクターだが、そつなくこなしていた。

「カメレオン」でのチェーホフへの、「男性〜」での蜷川への、ちょっとした言及といった隠し味を今回も楽しみにしていたのだが、あからさまには出てこなかった。しかし、今回の隠し味はズバリ、「小津安二郎」である。まず、ドーネンの可愛がっている子ども(おそらくロボットであろう)の名前が「ヤスジロウ」。そして、火葬場の煙を見て、「どんどん死んでどんどん生まれてくる」というネハムキンのセリフは「小早川家の秋」に出てくる笠智衆のセリフ、もうひとつもっと後の方で、これも小津だ、と思ったセリフがあったのだが失念(追記:チャズが言う「戦争が終わって良かったことは、くだらないヤツがいばらなくなったこと」という意味のセリフは「秋日和」に出てくる加東大介のセリフと同じである)。他にも気がついていないところもあるかもしれない。このあたりの忍び込ませ方はケラのひそかな楽しみなのだろうか。実にうまい。

そういえば、人造人間に過去の記憶を与える、というモチーフは、言わずとしれた映画「ブレード・ランナー」のものでもある。

追記(2005年1月26日):2004年12月に発売になっていた「せりふの時代」2005年冬号に『消失』の脚本が掲載されており、末尾にあげられた参考・引用資料のひとつとして、「小津安二郎・野田高梧共同脚本『晩春』『秋日和』」があった。また同誌に連載されているケラの「センス・オブ・ナンセンス」第10回は「小津安二郎『麦秋』を読む」となっており、単なる部分的な引用ではなく『消失』のことばそのものが小津映画の影響下に作られていることがすでに作者自身によって語られていた。

「不自然さ」を極度に排除しながら成立した静かな演劇の影響下にあった90年代の小劇場演劇のことばが今また、変わろうとしているのだろうか。

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【NYLON100℃ 27th Session 消失】
紀伊国屋ホール 12月3日(金)~26日(日)<プレビュー12月2日>
(観劇日12月23日(木・祝)14:00開演 S席D列左ブロック 5800円)
上演時間約2時間40分(休憩なし)

作・演出 ケラリーノ・サンドロビッチ
出演 犬山イヌコ みのすけ 三宅弘城 大倉孝二 松永祐子 八嶋智人

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